ブエノスアイレスに咲く花

「やっぱりサキは
 スルメじゃなくてガムなんだよ」

相沢は煙が僕にかからないように
吐き出して言った。

「サキが聞いたら更にキレそうだね」

「噛めば噛むほど味が出ないと、
 見た目がよくても男は飽きる生き物だからな」


サキは短大時代に準ミスに選ばれた。

身長も高く、頭も小さい。
育ちのよさを思わせる素直な性格からも、
振られるどころかこの先、
男に不自由することはないだろう。

「要するに僕は、
 噛んでいるガムの糖分をすべて吸収して、
 樹脂だけになったそれを捨てれずに、
 いつまでも噛み続けている、と言いたい?」

「捨てる紙が見つからないだけかもしれない、
 だから俺は、そんな時こまらないように、
 いらないレシートも取って置くんだ」

相沢と話していると、深夜のタクシーに乗り、
眠っている間に自宅に送り届けられたような気分になる。

遠回りされたかもしれないが、文句は言いにくい。
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