ブエノスアイレスに咲く花
右の頬を打たれたなら
いよいよ梅雨が明けて
真夏日が数日続いた7月の終わり、
気温は摂氏35度を越えて猛暑日となった。
広い土手の芝生に相沢と腰掛けて、
川に向かってしゃがむ奈津美を見ていた。
奈津美はグレーのTシャツに
ピンクとネイビーのチェック柄の
ショートパンツを履き、
ストローハットを被っていた。
「あいつこっち着いてから
ずっと裸足だけど怪我しないのかね」
相沢にしては珍しく、人の心配をした。
そしてコーラのフタを明け、
プスっと空気の弾む音を
その品質を確かめるように聞いていた。
僕が暑さに耐え切れず
日陰に移動しようとしたとき、
奈津美が満足そうに笑いながら、
こちらに戻ってきた。
空だったペットボトルには、
半分くらいまで川の水が入れられていた。