強引な彼にすっかり振り回されています


それは、週明けのことだった。


「紗也ちゃん、電話。ヴィズウエストの西王寺様から」

「誰だっけ……?」


「先日お世話になりましたって前置きだったけど、いつの間にイケメン副社長と?」


向かい席のベテラン事務員さんから興味津々の顔でそう言われ、

あぁ…あの時の……、と爽やかに名刺交換した彼の顔を思い出す。

もしかして、あのご家族から不満か何かがあったのかなと身の引き締まる思いで受話器を取った。


「変わりました、片岡です。先日はどうも。」

「西王寺です。この前は本当に助かったよ。
お客様も大喜びで帰られて商談も上手く運んだんだ。ありがとう。」


クレームの電話ではなかったことに安堵して、そっと息をついた。



「お役に立てたのでしたら良かったです。御商談もおめでとうございます。」

「これも何かの縁だから、お礼方々キミに直接連絡させてもらったわけなんだけど、
ついでに俺からの仕事、受けてくれないかな?」

「えっ?ご依頼ですか?」


ほっとしたのも束の間、また息を飲む話の展開となった。


「うん。もちろんキミの上司に相談してもらって構わない。
ただし受けてくれるなら担当はキミにお願いしたい。」


一介の庭師でしかない私に個人的な依頼が入ることなどあるはずもなく、

いつもは親方のところに入る依頼が担当者に振り分けられるかたちで仕事をいただいていたのだが。


「どっ、どのようなご依頼で……」

「ホテルのファンクションルームでコーディネートを頼みたいんだ。内容は直接会って話そう。」


一方的に日時が決められ、電話が切れる。

突然の出来事に追いつけていないまま、そっと受話器を置いた。


「イケメンからの電話、何だった?」


早速、興味津々の事務員さんが声を潜めて聞いてくる。


「先日のお礼と、お仕事の依頼でした。もう、何期待してるんですか?」

「なーんだ、つまらないの。でも、良い声だったわねぇ。」


そうですね、と相槌を打ちながら耳に残る声を反芻してみる。


『担当はキミにお願いしたい。』


頬の筋肉が緩んでしまっている気がして、両頬を軽く摘んだ。

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