光は空と地上に輝く
~その日から九日後~

 私はベッドから体を起こした。まだ朝の七時半だった。でも、本を読み終えるには最低でもまる一日必要だった。何回か読んだことがあるとはいえ、結局三日かかるとは思っていなかったけれど。
 最初の一冊。何年か前に映画化されて話題になった小説。
 翔は映画版しか知らなかったから、といっても好きな女優が出ていたから見ただけだったらしいけど、私は小説を勧めた。一週間後、翔は目を輝かせて
「小説の方が面白いじゃん。まぁ映画も映画でいいけど。」
 なんて言ってきた。それがきっかけで翔は私から本をよく借りるようになった。少しでも先が気になると読むのが止まらなくなった翔は早いときは一日で返してきた。
「ちゃんと読んでんの?内容言ってみて!」
 疑ってかかる私に翔は当たり前のように内容を言いあてた。本当に読んでいるのはわかった。早すぎる気もするが…。でもそれより私は翔が本好きになるのが嬉しくて、頼まれる度に貸し続けた。
 そんなわけで、一冊目は私にとってとても思い入れの強い本だ。
 結局読み終わるまでに三時間もかかった。そしてただ楽しんだだけだった。まぁ予想通りと言えば予想通りだ。
 二冊目。小説家MIAのデビュー作。青春を描いた作品だった。
 これも翔に貸し、たしか二日で返ってきた。翔にとって、読み終わるのにかかった日数が多いほどその小説は面白いらしい。まぁそれなりだったということだろう。
 この本に思い入れがあるのは翔が理由ではない。それはむしろ私自身にある。その文体が、表現が、描写が、全てが私好みで、登場する男の子が小さい頃の翔と被るのだ。だから翔を勝手に重ね合わせて読んだ。「翔、勝手に登場させちゃってごめんね。もう一回勝手に使わせてね。」心の中で翔に謝った。また翔を登場人物に重ね合わせて読み進めると、翔とずっと一緒にいる気分になった。
 二冊目まで読んで、私は本来の目的を忘れていたことに気づいた。これは翔じゃなくて流架のためのはずなのに、ただただ楽しんでいた。本以外の事を全て忘れ、かつて翔と白銀のベッドを走り回った時のように、楽しんでいた。
 三冊目。本来の目的を思い出して、流架に関係ある本を選んだ。流架が一番気に入っていて、私も大切にして、そんな本だった。
「私たちに似てるよね」
「ほんとそれ!実は僕たち二人がモデルだったりして」
 そう思うのも無理はなかった。心を閉ざしていた同級生と見ず知らずの男子の関係が次第に花開く、そんな内容だった。
 私たちに似ていたから、ある日私たちは過去のインタビュー映像を二人で見てみたのだった。

「MIAさん。このふたりのモデルはいるんですよね?」
「はい。います。偶然図書館で会った人で、私が小説家になる前に会った人なんです。本の趣味が合って、それで仲良くなって。ある日お願いしたんです。小説に書かせてくれって。それがこの作品です。実はデビュー作もモデルがいるんですよ。」
「ではデビュー作も書かせてほしいとお願いしたのですか?」
「いいえ。デビュー作は弟の友達をモデルにして勝手に書きました。次の小説はその続編です」
全ての質問に優しい笑顔で答えていた。この人の小説をもっと読みたい!そう思った。
MIAという小説家の本を。

私と流架のことを描いているような本。読み進めると流架との日々が思い起こされた。初めて会った晴天の日、蕾が開いた日、開いた花が満開に咲き誇ったあの日、…流架に会いたくなった。
 私は病院に向かっていた。太陽は雲で隠れては輝きを放ち、道はどこまでも続いていきそうで。「道のり」は長く感じられた。
 流架の傍に面会時間ぎりぎりまでいて、流架を見て気持ちが強くなった。絶対に助ける。絶対に…。
家に帰ってからはもうほとんど記憶はない。一日に三冊も読んで疲れたせいだ。すぐに寝た。
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