光は空と地上に輝く
本に書かれた文章はここで終わる。
「心の日記」。心が壊れかけた私が心を保つために表紙にそう書いた日記帳。それを読み終えたふたりは、ノートをゆっくりと閉じた。そのタイミングで私はふたりに言った。
「ごめんね。最初の頃、話しかけてくれたのに無視しちゃって。私、三人のおかげで変われた。ホントにありがとう」
 今までずっと言いたかったことを言って、私は笑いながら、泣いた。その涙とともに、残っていた暗雲はきれいに消えた。そして、心の底から思ったことを最後に言った。
「三人と出会えてホントに良かった。」
 言い終わった瞬間、遥と直樹は私を見た。私の心に刺さって残っていた冷酷なもやをかき消してしまうほどの暖かい目で。そして、ふたりの言葉が心を癒した。
「僕は香歩をいじめた奴らが許せないよ。香歩はずっと僕の友達だから」
「私も。早希って奴も担任も、香歩を傷つけたやつを許さない。これから香歩を傷つける奴も許さない。ずっと、ずーっと香歩は私の親友だよ」
「ありがとう…」
 私は嬉し涙を流した。そんな私を遥は、私の頬をつねって笑わせてくれた。直樹は、自分の涙を拭いながら、私が落ち着くのをただ待ってくれていた。そして、落ち着いた私に直樹が言った。
「僕たちは絶対に香歩を裏切らないよ。だから、今は流架を助けよう。それで、なにすればいいの?」
私は部屋にヒントがあることを話した。
「部屋ねぇ。流架の家って遠い?近いなら部屋行ってみたいんだけど」
「それもそうだね。僕たちが見ても何もないかもしれないけど見る価値はありそう」
すぐに電話して家に行けることになった。
「じゃあ行こ!」
ものの一分で着いた。
「ちかっ!!こんな近くに住んでんだ…。さすがにマンションは違うと思ってた。そりゃ毎日一緒に登下校するわ。いつでも会えるとか羨ましい!」
 遥が驚くのも無理はない。クラスのみんなは私たちの家が近いとは知っていたが、同じマンションにあるとは知らなかったのだから。
「たしかにこの近さには驚くよ。でもそれより、とにかく部屋に行こう」
三人で探してもなにも出てこなかった。直樹が真剣な顔で聞いてきた。
「本は流架のものなんだよね?なら、家に流架から借りた本とか自分で買ってない本とか何かない?」
「あ!ある!自分で買ってない本!」
 一一冊目。見たことのない本。なんの思い入れもない本。ただあの時のママの反応が気になり続けていた。本当にママの本なのか。二人を連れてもう一度聞いてみた。そして、ママは覚悟を決め、私の目を見て言った。
「黙っててごめんね。それは、翔くんから渡された本の代わりにママが置いた本。香歩がいない時にママに預かっててほしいって言われたの。そして、ある時、それを香歩に渡してほしいって。ママね、それを読んでみたの。最初は全部は読めなかった。読みたくなかった。何日か経ってから全部読んで、それでも香歩には渡せなかった。だから、その本はママの本と入れ換えて棚に入れた。本物は違う場所にあるの…。」
母は私の部屋のクローゼットから取り出した本を手渡した。
「はい。これが本物。買い物行ってくるね。最後までちゃんと読むんだよ。」
翔がママに渡した「本」。私でさえ一度も見たことがない。
 日記だった。私のことばかり綴られていた。私がひとりだったこと、翔だけが心の拠り所だったことなど、翔には気づかれていないと思っていたことがたくさん書いてあった。
 しかし本当に読めなかったのはその次からだった…。
私の中では、翔は転校したはずだった。
「ほんとごめんね。」
「翔が悪い訳じゃないよ。でも寂しくなるなー。」
 翔は転校することが決まったらしく、すぐに私に会いに来た。皮肉にもその日は晴れていた。心は厚い雲におおわれた。
でもこれは日記の続きに書いてあることとはまるで違っていた。
< 18 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop