光は空と地上に輝く
~その日から一三日後~

結局この日は翔とは会えなかった。
リビングに向かった。朝日が雲に隠れていた。ママは疲れた顔をしているがいつもと変わらず笑っている。それでも昨日あったことを忘れてはいないはずだ。少し気を重くしながらママの隣に座った。
「おはよう」
「おはよう。いつも通りだね。良かった。香歩がすごく落ち込んで、それで香歩おかしくなったらどうしようなんて思ったら寝られなくて。安心したし、寝るね」
 そのほっとした顔を見て心が軽くなった。強い光が外から注ぎ始めた。そして私は、何かに押されるようにLINEを開く。そして、メッセージを送った。
香歩「翔じゃないのはわかってる。でも、頼れるのはあなたしかいません。だから教えてほしい
の。夢の続きは?」
 二度とLINEが返ってこない気がした。それでも私は「翔」に頼る。それで流架が助かるなら偽物でも気にしない。夢の続きだけでも教えてほしい。そう願いつつ携帯をテーブルにそっと置いた。そして、携帯をもって二階に上がろうとした時、音楽が流れ始めた。ソファに座り直してLINEを開いた。
翔?「翔のこと、許してあげてね!」
「翔のふりしてごめんね。でもね、夢を見ていたのは本当。それでも私は、夢の続きを教え
られない。教えたくないんじゃない。ただまだ夢に出てきてないだけ。出てきたら必ずL
INEします!」
なんで、なんで夢の続きがないの?流架には関係ないから?そう思ったけど、「翔」にLINEを返した。
香歩「信じていいの?」
私には信じることしかできない。送ったメッセージを削除して、送り直す。
香歩「信じるよ。LINE待ってる。」
すぐに既読がついて、なにも返事はない。着メロの音量を大きくしてソファに横になった。
今日は何をすればいいんだろう。日記じゃないとしたら何だろう。
突然流れた大音量の音楽。私は重たいまぶたを開いた。いつの間にかソファで二度寝してしまった。見ると画面には遥からのメッセージが表示されていた。メッセージ他に五件来ていた。LINEを開いて、古い順にメッセージをみる。「翔」からはなにも来ていなかった。どうでもいい公式アカウントから来た二件は既読して閉じた。残りの三件は遥と直樹からだった。
直樹「どう?何か進展あった?」
遥 「さすがにあったんじゃない?昨日のあれ以外に考えられないしょ!」
  「香歩大丈夫?落ち込んでるなら慰めてあげるよ?笑」
すぐに返信した。
私 「何も進んでない」
  「落ち込んでないから!遥も泣いてたでしょ」
遥 「たしかにそうだね!笑」
トークをして今日やることが決まった。
直樹「翔の日記が流架の本棚に入ってた本なのかな?」
トーク中に、翔の日記を流架が持っているのはおかしいことに気づいた。
ふたりには何の繋がりもない。だとしたら本棚のあのスペースは何?まだ終わってない。ふたりにまた手伝ってもらおう。
私 「まだ終わりじゃない気がする」
  「今日ふたりとも暇?」
遥 「日曜だよ?香歩と流架のためなら部活サボる!」
直樹「手伝うに決まってる。あのさ、サボるのはどうかと思うんだけど。風邪とか何かしら理由つけたら?」
遥 「そうする!」
私 「ありがと」

午後、ふたりが家に来た。
「それで何かわかることないわけ?」
「正直、ない…」
「それじゃ進まないよ~」
「だったらもう一度流架の部屋に行ってみるのはどう?香歩が何か思い出せばいいわけだし」
直樹の言葉に私たちは頷いた。そして流架の部屋に向かった。
「さぁて、んで、何すんの?」
「わからない。行って何するか考えてなかった。」
直樹はしっかりものに見えて意外とぬけてるところがある。そういえば流架もぬけてたな。

「流架どうしたの?そんなに慌てて珍しいね」
「次使う教科書無くて。ちょっと前の教室見てくる。」
そう言って走り出した流架。ここにあるよと言いたげにカバンから顔を覗かせている教科書。
それを見た瞬間、私は声を上げて笑った。
「どうしたのそんなに笑って」
聞いてきた遥に教えたら、遥はツボに入ってまともに立っていられない。ふたりで笑っているところに流架がこの世の終わりを告げるような顔をして入ってきた。
「何でそんなに笑っ…え!?ここにあったの!?そんなー。」
本気で悔しがりながら教科書を取る流架のブレザーの胸ポケットに何か入っているが見えた。
「胸ポケットに何入れてるの?」
「本だよ。いつでも読めるように胸ポケットに入れてるんだ。ほら?早いでしょ?」

「直樹がぬけてるおかげで、わかったよ!あのスペースにぴったり入る本!」
「何か役に立てて嬉しいような、でも悲しいような。」
「そんなんどうでもいいから!それでどこなの!」
「とにかく病院行こう!」
病院へ向かうバスの車内で、小声で話した。
「そろそろ教えてくれない?何がわかったの?」
「直樹みたいに流架にもぬけてる時があったの。」
そして流架がよく胸ポケットに本を入れていたことを話した。
「ん?ってことは、流架が持ってるってこと?」
「たぶんそう」
ふたりが話すのをただ聞くだけで何も言わない直樹。ちょっと悪いことしたかな。
「直樹ごめんね。悪気はなかったんだけど…。」
直樹から反応がない。直樹は何か考え込んでいた。
「直樹?」
「あ、ごめん。何?」
「さっきは悪いことしたなって思って。ごめん」
「あぁ、全然気にしてないから大丈夫。今ちょっと考え事してて」
「考え事って何?」
「いや、何でもないよ」
話すうちに病院近くのバス停に着いた。すぐに病室に向かった。
「ねえ、香歩、勝手に探しちゃって大丈夫なの?」
「お母さんから許可もらったから大丈夫。制服はロッカーの中だって」
すぐにロッカーを開けると汚れて、破けて、見ていられないほどに痛々しい制服があった。胸ポケットには何もなかった。運び込まれたときに抜き取られたのかな。電話してみよう。そう思った時、
「香歩、これじゃないかな?」
振り返ると直樹がきれいなカバーで包まれた本を持っていた。
「きっとそれ!胸ポケットに入ってなかったし、それだよ!さっすが!」
照れ笑いする直樹から遥が本を受け取って言った。
「この本知ってる!」
横にいた遥の言葉に私はすぐ反応した。正直、遥が知っているのに驚いた。遥はあまり本を読まないから。
「ほんとに!?教えて!」
遥は頷いて話し始めた。それも不思議そうに。
「うん。えっとね、香歩が風邪で学校休んだ日に流架が言ってたの。『この人知ってる?最近はまってるんだよね』って。そしたら聞いてもないのに内容まで教えてくれて。そのとき教えてもらったのがこの本。でもさ、香歩が風邪で休んだ日って何ヵ月も前の話じゃん。今も持ってるなんておかしくない?。流架が本一冊にそんなに時間かけるわけないし。何かおかしくない?そう思わない?」
「絶対おかしい。流架長くても1週間で一冊読み終わるし。私その本持って帰って読んでみる。読んだら何か分かるかもしれないし。」
「何かわかったら教えて」
「もちろん。私もうちょっと流架の近くにいたいからまだ帰らないけど、ふたりはどうする?」
「私も一緒にいる。」
「僕は、もう少し探してみるよ」
 直樹が何かないか探している間、私はさっきの本のカバーを丁寧にめくり表紙を見た。そこには、作者MIAと書いてあった。後で読むと決めた。本を丁寧にカバンにしまって流架の方に目を向けた。目を閉じて眠っているけれど、すぐに私を照らしてほしい。あの太陽のような笑顔で。    
そう願っていた時、遥が話しかけてきた。
「ねぇ香歩、直樹変じゃない?」
 言われて気づいた。さっきからほとんど喋っていなかった。病室でこの本を見つけてからずっと一言も喋ろうとしなかった。それどころかいつもより顔が暗い。
「どうかした?やっぱりさっきの気にしてる?」
 私の言葉になにも反応しない。それどころか一点を見つめて固まっている。いつもはすぐに反応するのに反応しないなんてどう考えてもおかしすぎる。もう一度話しかけるとやっと反応してくれた。
「ごめん。」
「どうしたの?大丈夫?」
「大丈夫。ぼーっとしてただけ。何も無かったしそろそろ帰るよ。ふたりはまだいるんだよね?じゃあまた。」
 引き止めようとする私たちを背に直樹は颯爽と帰っていった。私たちは直樹が心配で、理由を知るためにつけていくことにした。
直樹はバスにも乗らず、イヤホンをしながら歩いていく。高一の頃の私みたいに。
「どこ向かってるんだろ」
「こっちって家とは真逆だよね?」
 住宅街をぬけて街中に出た。映画館、ボウリング場、ゲームセンター、若者が集う場所には目もくれずひたすら歩く。遂には街をぬけた。それから一〇分ほど歩いて、直樹の足が止まった。私たちは目を丸くした。直樹は病院へ入っていった。
「ここって、聞くまでもないけど、病院だよね?」
「うん。しかも私が入院してた病院。」
そこは紛れもなく、私が事故に遭って怪我をした時に入院していたところだった。
「中入る?」
「入ってみよう」
 中に入った私たちは直樹がエレベーターに乗るのを見た。エレベーターは七階でとまった。私たちもエレベーターに乗って七階へ向かった。エレベーターから降りると同時に直樹がある部屋から出てきた。車イスを押しながら。隠れようとしたけれど、もう遅かった。直樹は細い目を丸くして立ち尽くしていた。
「香歩、それに遥まで、どうして。」
「心配でつけたの。今日の直樹おかしかったから。」
 私よりも先に遥が答えていた。私たちは全員、全く状況を読み込めずにいた。最初に口を開いたのは直樹だった。
「とりあえず部屋に入って。話はそれから。いいよね?」
車イスの女性は、「いいよね?」という言葉に頷いた。部屋に入ると女性はベッドに横になり、直樹はベッドの横に座った。私たちも椅子に座った。さすがに少し距離をとって。
「この人たちって直樹が言ってたあのふたり?」
「そうだよ。」
「ということはつまり…」
「そう。流架がつなぎとめてくれた僕の大切な友達だよ。」
ふたりが話すのを私たちは黙って聞いていた。というか言葉が出なかった。まだ混乱している。それに救ったって何?私はとりあえず1番の疑問をぶつけた。
「あのさ、その…、どういう関係?」
直樹の答えで私の頭は余計に混乱した。
「この人は、野田奈津美、僕の姉。病気で入院してるんだ」
「え、お姉ちゃんいるって言ってたっけ?」
「いや、言ってない。あえて言わなかった。言ったらもう友達でいれなくなる。もし友達のままいれたとしても、気まずすぎる。そう思ったから。でも、この際だから、ばれたから、明かすよ、全部、何もかも。」
直樹はなぜか泣きそうな顔をしていた。友達でいられなくなるほどの秘密なんてない、そう思った。すると、直樹の様子を見てお姉さんが言った。
「直樹、いいよ、私が言うから。」
「ふたりにお願いがあるの。この話を聞いた後も直樹と友達でいてほしい。」
私たちは、戸惑いつつも頷いた。
「それじゃあ、直樹が言ってるその秘密っていうやつを教えるね。」
その秘密は私の予想よりも何倍もショッキングなものだった。

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