光は空と地上に輝く
~長旅一五日目~

「メールを送ったら入ってきてね」
「わかりました。」
 流架のお母さんが流架に事実を話し始めた合図だ。
 あの時流架のお母さんは翔の死を告げることを受け入れてくれた。四日かかったのは、流架のお父さんと翔のお父さんが帰国するためだった。研究は終わっていないが、承諾してくれた。
 一時間ほど経ってからメールが来た。私たちは家に入った。翔が偽物だと知って、その偽物が現れるのだから、出ていけと言われる気がした。それも覚悟の上でリビングの戸を開けた。予想通り、流架は私たちを見て、冷たい視線で、ただ一言、誰?と言った。流架にそう言われると泣き叫びたくなる。でも、耐えた。前みたいに流架と過ごせない方が悲しいから。すると流架のお母さんが言った。
「流架、ちょっと出かけるよ」
 着いたのは、翔のお墓。私たちは車の中で待ち、電話を通して流架とお母さんたちの会話を聴いた。翔は死んだと知っていても辛いのに、流架は泣かなかった。まだ死んだと信じられないのかもしれない。しかし、翔のお父さんが真実を打ち明けた。翔は難病で死に、私は止めたがそれでも最後には研究に身をささげたこと。そして翔の、流架君には自身の死を告げずにずっと笑顔でいてもらいたいという願いを尊重して、流架君には告げなかったこと。他にも翔の死について真実を話した。そして、流架のお父さんが「本当だ」と言ったことで、そして、お墓の横を見たことで、流架はとうとう泣き始めた。見てるのが辛かった。そして、「翔」に話しかけた。
「先に死ぬなんてひどいよ。翔の彼女は俺が守ってやる」
 いつもは俺と言わない流架が俺と言った。思いの強さが伝わって嬉しくて飛び上がりそうになった。でも同時にいつもの流架ではないこと、そして私がその彼女だとわかっていないことを考えると悲しく感じた。
 
次は事故の現場に向かった。
車から降り、一台のトラックが通りすぎた瞬間、流架の様子が変わった。両手で少し頭を抱えてから、形相を変えた。
「そうだ。あの時。」
そう呟いてから目の色を変えてお母さんに言った。
「母さん!今すぐ香歩の家に行って!あの日、香歩が先に帰って、後で学校出てから走って追いかけて、そしたら香歩が見えて。でも車がブレーキかけないで坂下りてて。香歩は!大丈夫なんだよね?」
 あの時暗くなったのは、流架だったんだ…。私を助けるために…。車の中にいるように言われていたけれど、電話を通して聞こえた声に反応して私は駆け出した。止めようとしたふたりの手を振り払って、駆け出した。それに気づいた流架が私の方を振り返って、泣いた。そして私の方へケガをした足で必死に走ってきた。流架は走って向かってくるのが私だとわかっている。最高の瞬間。泣きながら走り、そして、抱きついた。流架が怪我しているのを忘れて。流架の存在を体で感じた。
「流架!よかった!思い出してくれて…」
「ごめん香歩!生きててよかった…」
「私のためにありがとう」
「目の前で彼女が死ぬの見たいわけないでしょ?守るに決まってるじゃん」
「バカ。流架が死んだら私生きてられないよ」
長い間抱き合っていたけれど、ふたりが車から降りてきて、少し冷静になって気づいた。流架が少しふらついていた。
「あ!ごめん!足怪我してるの忘れてた」
「ちょっと倒れそうで危なかった」
やっと、私を見て笑う流架を見れた。
「ふたりも流架のために頑張ったんだから」
「遥!直樹!ごめん!」
「やっといつも流架に会えた。よかったよ。香歩なんか死人みたいだったんだから」
「言わなくていいから!やめてよ遥」
「おかえり流架。あの秘密言っちゃった」
「え!?直樹が言うとは思わなかった。でも受け入れてくれたんだね」
「うん。この一ヶ月の事色々教えてあげるよ。後でね」
「すごい話がいっぱい出てきそうだね」
それから四人で私の家で語り合った。みんなの秘密を知って、その度に反応する流架が戻ってきた。四人で笑いあう日常が戻ってきて嬉しかった。
「ねぇ、そういえばさ、何で花火嫌いなの?」
「それここで聞く?まぁいいか。もう秘密じゃないし。直樹は耳塞いでもいいよ。お姉ちゃんが死んだ日が花火大会で、死んだって聞いたと同時に花火が空に上がったんだ。だから花火見ると泣いちゃいそうになって、香歩に聞かれたら直樹との秘密ばらさないといけなくなるでしょ?だから嫌いって嘘ついて行くのやめた。まぁもう秘密じゃないから来年は全員で行こうよ」
「えーふたりで行ってきなよー。私は直樹とふたりの後つけて「ザ!バカップル!」ってかんじの写真撮るから」
「絶対いや。遥なら本当にやりかねないし」
「人をなんだと思ってんの?」
「ごめんごめん」
「そういえば、香歩、胸ポケットの本読んだんでしょ?あとがきまで読んだ?」
「あ、まだあとがきまで読んでなかった」
「読んで。絶対に読んだ方がいい」
私はあとがきを読み始めた。………。読み終えたとき、私は全てを理解した。同時に涙があふれて止まらなくなった。
あとがきにはこう書いてあった。
 
  「この小説は私のデビュー作とともに、私の弟の友人が、自身が死ぬのを悟り、愛する人Kに思いを伝えるべく私が代理で書いたものである。タイトル「K&K」は彼らのイニシャルであり、この本の本文最後の言葉、「今までありがとう!幸せにね!」は実際に彼がKにあてたものである。」
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