光は空と地上に輝く
~転校生が来てから一週間~

「かけるー!まってー!」
「やーだよー」
 一面の銀世界が広がる公園。青と白が見渡す限り果てなく広がる。凍った湖の傍では、皆が様々な楽しみ方でこの自然を満喫している。バナナボートを楽しむ人は、スノーモービルに牽かれた黄色い船の上で激しく揺られ喜んでいる。また、釣りをする家族は、子どもが白い海から小さな魚を何匹も釣り上げ喜ぶのを見て両親が笑っている。そして、白銀のベッドの上では、全身真っ白になりながら走り回るふたりの子ウサギが、笑顔いっぱいに自然を謳歌している。。
 ふたりの子どもは疲れたのか、白銀のベッドにダイブして横になった。
「かほちゃんおそいよー」
「かけるが早いんだよー」
頬を膨らます女の子。そして、男の子は微笑んでから、また起きて走り出した。女の子はついていくのに精一杯だったけれど、楽しそうに男の子を追いかける。ベッドにはいくつもの小さな足跡が刻まれていた。それが無数に続いていく。
「かけるー」と楽しそうに叫ぶ私…………目の前には天井があった。
「あー。戻りたい…。ただただ楽しかった日々に。」
翔の夢を見るといつも心の中で呟く。いくらそう思っても叶うことはないとわかっている。それでも…。
 
坂を上り桜の枝を見て、いつも通り一人で登校し学校に着くと、やはり彼は話しかけてきた。
「おはよー!いい朝だねー!」
 ここ一週間いつもそう。彼だけが私に話しかけてきた。もちろん笑顔で。やはり外では太陽が輝き、春の訪れを告げている。彼に笑顔でない日はないのかと、太陽が似合わない日はないのかとこの一週間ずっと思っている。私とは正反対の彼は、早くも他のクラスメイトと仲良くなり、音楽の話やアメリカの話で盛り上がっている。もちろん、あのまぶしい笑顔は絶えることがない。
 私はいつも「おはよう」と返す。俯いて、笑わずに。単純な作業のように。
 朝を過ぎるといつも通りの日々に戻る。真面目に受けているオーラを出しながら授業を流し、あっという間に過ぎ去る授業の合間の時間で本を読み、一日が終わる。でも、帰りはいつもと違う。幸か不幸か、私と彼は同じマンションだった。最近引っ越してきた家族がいたとは思っていたけど、彼の家族だとは思わなかった。そして、マンションの玄関で会うたびに、彼は決まって私に話しかけてくる。あの笑顔で。
「河合さんじゃあねー!」
「また明日」また笑わずに返す。
 それが一週間続いた。
 最初は嫌だった。それが、一週間後、私たちの関係に蕾がついた。桜の蕾よりも遥かに小さいけれど。
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