光は空と地上に輝く
~転校生が来てから一ヶ月~

私たちの間に咲きかけた桜の蕾が大きくなった。私と彼は一緒に学校に向かっていた。もう私の耳元では音楽は流れていないし、バスから降りてくる他の生徒を邪魔には感じない。病院の前では患者さんと看護師さんに挨拶をするようになり、校門で待つ鬼も苦に感じなくなった。校門の近くに並ぶ桜並木の花びらは、一部が散っていた。今までの真っ黒なアスファルトはなくなり、うっすらとピンクに染まったカーペットの上を歩いている。頭上にはほんのりピンクに色づいた桜と澄んだ青空が広がる。頭上からまばゆい光が私たちをめがけてさしてくる。
「香歩がこんなにおしゃべりだなんて思わなかったよ。やっぱり笑ってる香歩の方がいいね」
そう言って流架は笑った。
「やめてよ恥ずかしいから」
私も笑っていた。
 
流架と仲良くなった私は変わった。最初は心の底から毛嫌いしていたが、彼の人柄や一つ一つの行動に触れるうちに、彼なら信用できると思うようになった。そして、流架と仲良くなってから、流架の友達とも話せるようになり、友達が増えた。それも、私を裏切らなさそうな、信用できる友達ができた。いつもは本を読んで過ごしていた時間はおしゃべりの時間になった。音楽を聴いていた時間は流架や友達との時間になった。流架が本当の私を引き出してくれた。笑顔が増えた。皆が純粋だった昔のように…。
二週間で私は本当に変わった。

「…ほ。香歩ー。おーい」
肩をとんとんされて驚いた。と同時に物思いから流架へと意識が戻る。流架の方が驚いていた。
「ごめん。考え事してて…」
「大丈夫だけど驚きすぎだよ」
「お互い様でしょ!」
そう言ってふたりで笑いあっていた。
「今度の土曜日遊びに行かない?」
「いいけどどこ行くの?」
流架は「内緒」とだけ答えた。
 
学校に着くと私たちは自然と「おはよー」の輪に入っていた。私も太陽の輪に入ることができた。今でもホントに香歩?本当は香歩じゃないんでしょ!と何回もからかわれた。それくらい、私は変わった。それに、あのつららは解けてなくなった。今では女子とも仲良くできている。
 友達と教室を移動する。左には教室、右には吹き抜けがある。しかも教室の廊下側の壁はガラス張り。いつもガラスに自分の姿が映る。それは一ヶ月前とは違う、前を向いて、友達の方を向いて歩く、明るい私を映す。

「さようなら」「さようなら」
学校が終わるとすぐ流架のところへ行く。
帰りも流架と帰って、いつもどちらかの家に寄って話をするのが日常になっていた。
「ねぇ、どこ行くか教えてよー」
「内緒~」
「まぁいいやー楽しみにとっておくよ。」
 すぐにマンションに着いてしまう。楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。学校から家が近いことを恨んだのは初めてだった。友達には「近くていいなー」とか「家交換して」とか、羨ましがられる。地下鉄に乗らなくて済むからだろう。
「今日はどっちの家にするー?」
「流架の家にしよ」
流架の家と私の家は目と鼻の先だ。何せ同じマンションなのだから。今では家族ぐるみで仲良くなった。
「香歩ちゃん、いらっしゃい」
 そう言ったのは流架のお母さんだ。ロングの黒髪はさらさらで輝きを放っている。整った顔に、若々しく見えるこの容姿。まったくこのお母さんがいてこのイケメンがあるんだなと思った。それにとても上品だ。そこは流架とは似ていない。
「おじゃまします」
 お母さんに挨拶してからすぐ流架の部屋に行く。部屋の壁には大人気ロック歌手のポスターが貼ってある。あぁいつもこのバンドが好きだって言っていたなと思いながら、私も少しずつ好きになりつつあるそのバンドのポスターを見ていると、もっと私の興味を引くものがあった。
「あれ?これ…」
「ん?あーそれねー」
 流架はそう言って「それ」を持ち上げた。そこには湖を背景に二人の男性と一人の子どもが写っていた。太陽でより真っ赤に見える紅葉が湖を囲う。
「昔何回も遊びに行ったんだー。僕の宝物だよ!この時にお父さんの友達の子どもと仲良くなったんだけど、その時その友達の子が寝てて三人で撮ったんだ。」
 とても楽しそうだった。子どもの頃に戻ったみたいに。
「お父さんとお父さんの友達と行ったんだよ。今はアメリカにいるんだけどね」
 流架のお父さんはアメリカに単身赴任している。いや、どんだけすごい家族だよ…。ついつい苦笑いしてしまう。
「あ、そうだ!夜はLINE電話ね。また忘れたら……」
「忘れないからそれだけは……」
というのも、ある日流架がLINE電話の約束を忘れたことがあった。そして次の日学校で、
「高校生がこちょこちょって子どもっぽいなー」
そう言う流架に構わずくすぐった。
 かなり効いたらしく、流架はくすぐられるのをとても嫌がった。以降、それが罰ゲームになっている。その反応が面白くて、私はかなり楽しんでいる。
「じゃあねーまた明日!」
 家に着いたら、すぐにお風呂に入ってかわいい感じの服を着てベッドの上に行く。この日はテレビ電話をして、ふたりとも寝落ちしかけたところで電話をやめて寝た。

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