光は空と地上に輝く
「翔、映画楽しかったね。わがまま聞いてくれてありがとね」
「うん、楽しかった。また行こうね」
手をつないで映画館から出ると人が大勢いた。翔にぴったりくっついて人の間をすり抜けながら一階に降りた。突然翔が私に言った。
「ヤバい!時間忘れてた!バス遅れそう!急ご」
発車時刻まであと5分だった。次のバスは三〇分後。心の中ではそのバスでも良いんじゃないかと思った。しかもバス停までそれなりに距離がある。それでも翔はそのバスに乗ろうとした。
「うわぁ間に合うかな、香歩足遅いからなー」
「ちょっと!ひどくない?」
「間に合わないから急ぐぞ!」
「私をいじってる暇あるなら大丈夫じゃない?」
酔うくらいの人混みの中を駆けて、急ぎ足で私たちはバスに乗った。
「ふー間に合った間に合った…ってあれ?疲れてんの?息切れてるけど」
「あのね、そりゃ、息くらい、切れる、でしょ。人、多すぎ、だし。」
バスの車内には私たちの他に数人しか乗っていなかった。何となく翔がいつもよりも苦しそうに見えたが、最近運動してないと言っていたから特に気にせずに息を整えた。、落ち着いてから私は聞いた。
「それで次どこ行くの?」
翔は何かたくらんでいるようだった。いつも何か企んでいる時にするずるがしっこい顔をしていた。
「内緒だよ」
「ふーん。まあいいや。」
翔となら正直どこでもよかった。
そうして着いたのはある公園だった。昔からよく知っているあの公園。湖面は青く、周りの木々は黄や赤に色づいていた。珍しく人は少なかった。途中に数人見かけた程度で、周りには人はいなかった。ふたりだけの時間だった。
「ここって…」
「昔よく遊んだよな。俺あの頃から香歩のこと大好きだったんだよ」
私は恥ずかしくて顔を赤らめていた。周りの木々の葉よりも赤く。そして、翔も。
「恥ずかしいからやめてよ」
「照れてんの?」
「うるさい。翔だってそうでしょ。」
頬を膨らませながら言った。
「昔から変わってないな。その顔」
「翔だって変わってないよ?」
「ちょうど一年か…」
「早いね…」
私たちは一年前から付き合っていた。何度も遊びに行った。映画は何回も観たし、中学生なのにカラオケにも何回も行った。翔はよくロックを歌い私はポップを歌った。
彼が突然言った。
「香歩!あっち見てみ!」
「あっち?何で?」
目の前にはただ湖と森が広がっていただけだった。それ以外に見てって言われるくらいに目立ったものはない。ただ湖と空が広がるだけだ。
「いいからいいから。もう少しだから」
「しょうがないなー」
言われて右に体を向けた。一分後、私は声をあげていた。
「…来た!」「うわぁ……キレイ…」
翔が指さした方を見ていると、雲の影から現れた夕日が湖面を照らした。夕日が湖面に反射して、本当に幻想的だった。一筋の光がまるで私たちを迎えるようにのびていた。
夕日が湖の中に落ちていく……前に目が覚めた。最近よく翔の夢をみる。
土曜日、私たちは遠くへ遊びに出掛けた。着いたのは地元のデートスポットだった。桜の名所で、しかも遅咲きのため人々はこの時期にお花見をする。関東からわざわざ見に来る人もいるほど名が知れている。学校の桜並木なんかとは比べ物にならないくらい綺麗で心地のいいピンクのアーチを通る。
「桜キレイだねー!」
「……………………。」
流架は反応しなかった。
「どうしたの?今日なんか変じゃない?」
私は不思議だった。いつも上を向いている流架が今日に限って少し下を見ながら歩いていたから。一番咲き誇っている桜の陰に入ると、
「俺と付き合ってください!」
突然私の方に振り返った流架はそう言った。突然のことで私は驚いたし、周りの人の視線を感じたが、私の返事は決まっている。
「もちろん!」
お互い顔を赤らめながら微笑みあった。見知らぬ人たちの拍手がものすごく恥ずかしかったけど、本当に幸せに感じた。そのまま手を繋いで桜のトンネルを通った。それから丘に登ってふたりで日向ぼっこ。すごく幸せだった。
そうして私たちは付き合い始めた。告白されなくても自然と付き合っていた、そう思われるくらい仲がよかった。友達から「リア充ー!」とからかわれていたほどだ。私も付き合ってるようなものだと思っていた。
付き合い始めてからは、ふたりで色々な場所に遊びに行ったり、今まで通りお互いの家に行ったりした。それも毎週。会わない日はほとんどなかった。家が近いから当然か。土日のどちらかは会わなかったとはいえほぼ毎日会っているからか、周りからラブラブだなとからかわれ続けている。それがまた幸せだったりする。
それから少し経ったある日、学校に着いたら遥と直樹が私のところに来た。宮嶋遥は私の親友だ。高校でできた初めての女友達で、ボブがよく似合い、学年でもかなり人気のある女子だ。遥は女子の私も好きになるようなかわいさで、サッカー部の男子と付き合っている。野田直樹はというと、普通の男子だ。とりわけイケメンでもない。でも優しくて真面目な男子だ。
遥がにやけながら聞いてきた。
「ねぇ何であんなイケメンと仲いいのー?コツ教えてよー」
最近遥によくいじられる。にしても遥の彼氏がかわいそうになってくる。遥の彼もイケメンなはずなのに。コツなんか教える必要ないじゃんといつも思う。
「何でだろう。自分でもよくわかんないや。ただ一緒にいると楽しいんだよねー。てか、遥の方がコツ知ってるでしょ」
「知らないよー。一緒にいると楽しいなんて羨ましいなー」
いや、遥もでしょ!っと心の中でツッコミを入れる。
「ねえねえ、流架のどこが好きなのー?」
「遥だって彼氏のどこが好きなの?」
そんな話をしている時に流架はやって来た。
「なに話してるの?」
「流架!な、何でもないよ!本当に!」
本人の目の前で好きなところとか言えない。恥ずかしくて絶対に言えない。
「いやいや絶対何かあるじゃん」
流架はいつも通りに笑顔だった。直樹は空気を読んで笑いながらも黙っていてくれた。でも遥は違った。
「いやー香歩が………いてっ!ごめんごめんやめてよー」
私は遥を止めるのに必死だった。ちょっと強くやりすぎたかもしれないが、いざそうなったら恥ずかしすぎる。
たまに遥は私をいじってくるけど、それでも許せてしまう。お茶目でいたずらっこなところが好きだから。
「何もないって!それより今度どこ遊びに行く?」
「話そらしたなー?まぁいいか。じゃああの場所に行こ」
あの場所は私たちにとって特別だ。
「もう桜散ってきてるよ?」
「散ってた方がいいんだよ」
何言ってるの?と内心思った。けれど流架は「早い方がいいから明日行こう!」という。とりあえず「オッケー明日ね」とだけ言った。
次の日、その公園を訪れた私は、公園に足を踏み入れてすぐ、流架の言葉の真意を理解した。
そこにはピンクのカーペットが広がっていた。今年二回目のカーペットは一回目より綺麗だった。一回目をカーペットと言っていいのかと思えるけれど、本当に綺麗だった。
「え、すっごいキレイ…」
「でしょー!誘って良かったー」
それから数時間、あの日と同じように、今度は桜のカーペットをふたりで歩いて丘に行った。この日は家につくまでずっと手を繋いでいた。
「ホントに綺麗だったね。また明日ね!」
「うん!今日はありがと!また明日ね、流架!」
目が合って更に頬が赤く染まった。そのままふたりとも家に帰った。
今日のことを思い出しながらベッドに横になっているとラインが来た。
『誕生日おめでとう!また明日ね!』
時計を見ると、五月一五日(日)0時0分 03秒。
『ありがとう!楽しみにしてるね!また明日!』
画面を閉じるとすぐに眠りについた。
「うん、楽しかった。また行こうね」
手をつないで映画館から出ると人が大勢いた。翔にぴったりくっついて人の間をすり抜けながら一階に降りた。突然翔が私に言った。
「ヤバい!時間忘れてた!バス遅れそう!急ご」
発車時刻まであと5分だった。次のバスは三〇分後。心の中ではそのバスでも良いんじゃないかと思った。しかもバス停までそれなりに距離がある。それでも翔はそのバスに乗ろうとした。
「うわぁ間に合うかな、香歩足遅いからなー」
「ちょっと!ひどくない?」
「間に合わないから急ぐぞ!」
「私をいじってる暇あるなら大丈夫じゃない?」
酔うくらいの人混みの中を駆けて、急ぎ足で私たちはバスに乗った。
「ふー間に合った間に合った…ってあれ?疲れてんの?息切れてるけど」
「あのね、そりゃ、息くらい、切れる、でしょ。人、多すぎ、だし。」
バスの車内には私たちの他に数人しか乗っていなかった。何となく翔がいつもよりも苦しそうに見えたが、最近運動してないと言っていたから特に気にせずに息を整えた。、落ち着いてから私は聞いた。
「それで次どこ行くの?」
翔は何かたくらんでいるようだった。いつも何か企んでいる時にするずるがしっこい顔をしていた。
「内緒だよ」
「ふーん。まあいいや。」
翔となら正直どこでもよかった。
そうして着いたのはある公園だった。昔からよく知っているあの公園。湖面は青く、周りの木々は黄や赤に色づいていた。珍しく人は少なかった。途中に数人見かけた程度で、周りには人はいなかった。ふたりだけの時間だった。
「ここって…」
「昔よく遊んだよな。俺あの頃から香歩のこと大好きだったんだよ」
私は恥ずかしくて顔を赤らめていた。周りの木々の葉よりも赤く。そして、翔も。
「恥ずかしいからやめてよ」
「照れてんの?」
「うるさい。翔だってそうでしょ。」
頬を膨らませながら言った。
「昔から変わってないな。その顔」
「翔だって変わってないよ?」
「ちょうど一年か…」
「早いね…」
私たちは一年前から付き合っていた。何度も遊びに行った。映画は何回も観たし、中学生なのにカラオケにも何回も行った。翔はよくロックを歌い私はポップを歌った。
彼が突然言った。
「香歩!あっち見てみ!」
「あっち?何で?」
目の前にはただ湖と森が広がっていただけだった。それ以外に見てって言われるくらいに目立ったものはない。ただ湖と空が広がるだけだ。
「いいからいいから。もう少しだから」
「しょうがないなー」
言われて右に体を向けた。一分後、私は声をあげていた。
「…来た!」「うわぁ……キレイ…」
翔が指さした方を見ていると、雲の影から現れた夕日が湖面を照らした。夕日が湖面に反射して、本当に幻想的だった。一筋の光がまるで私たちを迎えるようにのびていた。
夕日が湖の中に落ちていく……前に目が覚めた。最近よく翔の夢をみる。
土曜日、私たちは遠くへ遊びに出掛けた。着いたのは地元のデートスポットだった。桜の名所で、しかも遅咲きのため人々はこの時期にお花見をする。関東からわざわざ見に来る人もいるほど名が知れている。学校の桜並木なんかとは比べ物にならないくらい綺麗で心地のいいピンクのアーチを通る。
「桜キレイだねー!」
「……………………。」
流架は反応しなかった。
「どうしたの?今日なんか変じゃない?」
私は不思議だった。いつも上を向いている流架が今日に限って少し下を見ながら歩いていたから。一番咲き誇っている桜の陰に入ると、
「俺と付き合ってください!」
突然私の方に振り返った流架はそう言った。突然のことで私は驚いたし、周りの人の視線を感じたが、私の返事は決まっている。
「もちろん!」
お互い顔を赤らめながら微笑みあった。見知らぬ人たちの拍手がものすごく恥ずかしかったけど、本当に幸せに感じた。そのまま手を繋いで桜のトンネルを通った。それから丘に登ってふたりで日向ぼっこ。すごく幸せだった。
そうして私たちは付き合い始めた。告白されなくても自然と付き合っていた、そう思われるくらい仲がよかった。友達から「リア充ー!」とからかわれていたほどだ。私も付き合ってるようなものだと思っていた。
付き合い始めてからは、ふたりで色々な場所に遊びに行ったり、今まで通りお互いの家に行ったりした。それも毎週。会わない日はほとんどなかった。家が近いから当然か。土日のどちらかは会わなかったとはいえほぼ毎日会っているからか、周りからラブラブだなとからかわれ続けている。それがまた幸せだったりする。
それから少し経ったある日、学校に着いたら遥と直樹が私のところに来た。宮嶋遥は私の親友だ。高校でできた初めての女友達で、ボブがよく似合い、学年でもかなり人気のある女子だ。遥は女子の私も好きになるようなかわいさで、サッカー部の男子と付き合っている。野田直樹はというと、普通の男子だ。とりわけイケメンでもない。でも優しくて真面目な男子だ。
遥がにやけながら聞いてきた。
「ねぇ何であんなイケメンと仲いいのー?コツ教えてよー」
最近遥によくいじられる。にしても遥の彼氏がかわいそうになってくる。遥の彼もイケメンなはずなのに。コツなんか教える必要ないじゃんといつも思う。
「何でだろう。自分でもよくわかんないや。ただ一緒にいると楽しいんだよねー。てか、遥の方がコツ知ってるでしょ」
「知らないよー。一緒にいると楽しいなんて羨ましいなー」
いや、遥もでしょ!っと心の中でツッコミを入れる。
「ねえねえ、流架のどこが好きなのー?」
「遥だって彼氏のどこが好きなの?」
そんな話をしている時に流架はやって来た。
「なに話してるの?」
「流架!な、何でもないよ!本当に!」
本人の目の前で好きなところとか言えない。恥ずかしくて絶対に言えない。
「いやいや絶対何かあるじゃん」
流架はいつも通りに笑顔だった。直樹は空気を読んで笑いながらも黙っていてくれた。でも遥は違った。
「いやー香歩が………いてっ!ごめんごめんやめてよー」
私は遥を止めるのに必死だった。ちょっと強くやりすぎたかもしれないが、いざそうなったら恥ずかしすぎる。
たまに遥は私をいじってくるけど、それでも許せてしまう。お茶目でいたずらっこなところが好きだから。
「何もないって!それより今度どこ遊びに行く?」
「話そらしたなー?まぁいいか。じゃああの場所に行こ」
あの場所は私たちにとって特別だ。
「もう桜散ってきてるよ?」
「散ってた方がいいんだよ」
何言ってるの?と内心思った。けれど流架は「早い方がいいから明日行こう!」という。とりあえず「オッケー明日ね」とだけ言った。
次の日、その公園を訪れた私は、公園に足を踏み入れてすぐ、流架の言葉の真意を理解した。
そこにはピンクのカーペットが広がっていた。今年二回目のカーペットは一回目より綺麗だった。一回目をカーペットと言っていいのかと思えるけれど、本当に綺麗だった。
「え、すっごいキレイ…」
「でしょー!誘って良かったー」
それから数時間、あの日と同じように、今度は桜のカーペットをふたりで歩いて丘に行った。この日は家につくまでずっと手を繋いでいた。
「ホントに綺麗だったね。また明日ね!」
「うん!今日はありがと!また明日ね、流架!」
目が合って更に頬が赤く染まった。そのままふたりとも家に帰った。
今日のことを思い出しながらベッドに横になっているとラインが来た。
『誕生日おめでとう!また明日ね!』
時計を見ると、五月一五日(日)0時0分 03秒。
『ありがとう!楽しみにしてるね!また明日!』
画面を閉じるとすぐに眠りについた。