光は空と地上に輝く
~流架が来て三ヶ月~

 最近また翔の夢を見るようになった。でも今までとはまったく違うものだった。いつもならはっきりと見えていたのに、翔の顔が出てこなかった。翔は今どこで何をしているのか知りたい。何度もそう思った。高校になってから1度も会えていない。久々に会いたい。いつか会えたらいいな。夢を見るたびにそう思う。
 今日は昼まで寝ていた。たっぷり寝て夢をみる時間は多いはずなのに、それでも顔は出てこない。何年もずっと見てきた顔なのに。
 午後は家でのんびり本を読もう、そう思って本を探し始めた。私はかなりの読書家らしく、大きな本棚でさえ悲鳴をあげるほど本を持っている。上の方をあさっていると、ある本が棚から落ちた。見たことのない本だった。気になって読み始めた。
 読み終わった時には三時間も経っていた。まあまあ面白かったけれど、でも未だにこの本の事を思い出せない。ママに聞くことにした。
「ママ、この本知ってる?」
「…知らない。香歩持ってる本多すぎるもの。」
 なぜかわからないけど、ママは知ってる気がした。知ってるとしたら何で隠すのだろう。とりあえず忘れることにした。
 部屋に戻ろうとした時チャイムがなった。「出て」と言われたのでドアを開けると、遥が立っていた。
「遥どうしたの?」
「遊びに行こ!」
「今四時だよ?オールする気?」
「しないしない!まぁ帰りは9時かな」
 着いたのはカラオケ。中学生の頃からよく来ていた場所だった。でも何でこんな時間に…。
 八時まで歌った。ふたりで歌いまくった。明日喉死んでそう。ふたりともそう思った。流れのままに聞いた。
「何でカラオケなの?」
「んー、行きたかったから?」
楽しかったからいいかと納得…はしてないけど気にしないことにした。
家に着いて、よっぽど疲れていたのか、すぐに眠りに落ちてしまった。

「香歩!学校遅れるよ!いつもより長めに朝風呂入るんでしょ?そろそろ起きないと!」
私は飛び起きた。
「そうだった!やっばい!急がないと!」
 ママを起こしてしまうほど大きなひとりごとだった。まずいと思ったときにはもうママは起きていた、
「香歩。うるさいよ。まだいつも起きてる時間じゃないよ。ママまだ寝るから静かにして。」
 気を遣いながらお風呂に入っていると、ふと思い出した。さっき起こったおかしなことを。ママは、寝ていたのに、起こしてくれた?そんなことあり得るの?そう思ってママに聞くことにした。
ママが起きてきてから聞いてみた。 
「ママ私を起こしてくれた?」
「何を言ってるの?自分で起きて叫んだんじゃない。寝ぼけてるの?早く顔洗ってきて。ママ顔洗うの遅くなるから。」
 私に何が起きているの……。
 私は何で今日起きられたの……。
 起こしてくれたのは誰なの……。
疑問と不安。それが私を押し潰しそうで恐ろしくなった。
潰される前にさっさと家を出て流架との時間に浸る。
「どうしたの?顔色悪いよ?大丈夫?」
「あー大丈夫!平気平気!疲れちゃったのかな」
 何もなかったかのように取り繕う。気づかれても今朝のことを話しはしない。流架が話を信じる信じないより、自分がおかしいとわかる方を恐れた。自分が自分でないように思えた。
 そのせいなのか、一日中だるかった。そして午後に早退した。「早退」とか言って、ただの「さぼり」だけれど。流架に「やっぱり大丈夫じゃなさそうだよ?午後は休んだら?」と言われた。私は渋々頷いた。本当は流架といた方が気が紛れるから。でもだるさが勝っていた。さっさと学校を出た。
 川辺の緑のじゅうたんに横になった。七月は日向ぼっこにちょうどいい。かなりの時間寝てしまったらしく、誰かに起こされて目を覚ますと、目の前には流架がいた。ビックリして飛び起きて、流架の頭に額が勢いよくぶつかった。痛がる私と違い、流架は頭を押さえてはいたけれど、腹を抱えて笑っていた。笑いが止まってから流架が話し始めた。
「そろそろ話してほしいな。悩みごとあるんだよね?相談してよ。」
ためらった。怖かった。
誰かに生活を見透かされているような今朝の感覚が今も残っている。
私は決めた。
「たいした悩みじゃないんだけどね、最近、よく寝られなくて。それで顔色悪かったのかな。なんかだるくてさ。」
嘘をつくと決めた。半分は本当かもしれない。たしかに寝足りない。それでも流架はそれでもこの相談にのってくれた。
その後、あの写真の話をした。その間ずっと流架は空を見つめていた。どこまでも果て無く続く空を。
この日をきっかけに、おかしな事は起きなくなり平和な日常が戻った。

「学校終わったら遊ばない?」
遥が遊びに誘ってきた。カラオケに行った日以降、遥と私はかなり頻繁に遊びに出かけている。遥とならどこに行っても飽きないし、むしろまた行きたくなる。だから、
「いいよー」
と自然と答えていた。
 今日の行き先はいつもと違った。いつもは駅や駅近くのカラオケ店が多かったのに、今日に限って遥の家だった。その途中、ある公園に立ち止まった。
「懐かしいな」
「え?ここで遊んだことあったっけ?」
「あ、こっちの話。香歩は来たことないよ。まず中学が違うもん。来たことあるのは私。私よくここでブランコ乗ったの」
「へぇーそうなんだ。ちょっと、休憩していこ」
 恋バナやドラマや映画の話で話し込んで、気づいたら一時間経っていた。慌てて家に向かった。遥が「間に合わない!」と言って私の手を取り走り始めた。私はついていくのに必死だった。
「間に合ったー!あー疲れた!大丈夫?」
「何とか、息できてる。じゃなくて、殺す気か!」
この感じ、どこかで…。
「ごめんごめん。あ、始まるよ!」
 そして始まった。玉が空に吸われるように上っていき、大きな音とともに光を放った。今日は花火大会の日だった。
「花火大会今日だったの忘れてた。」
「え!?わかってると思って走ったんだけど、忘れてたの!?」
「流架が花火大会に行きたくないって言うからすっかり頭から抜けてた。」

この前流架に聞いたのだった。
「流架、花火大会どうする?」
「僕、花火好きじゃないんだ。ごめんね。」
 理由は聞けなかった。とても深刻な顔をしていたから。あんな顔初めてみた。それで花火大会には行かない。そう決めた。

説明し終わると遥が、
「何か悪いことしちゃた?」
「全然!見れて嬉しいよ」
そう言うと遥はほっとしたらしく、空に浮かぶ花をゆったりと眺め始めた。
一時間ほどで終わり、遥のお母さんに送ってもらって家に帰った。
遥と走った時を思い出して、翔のことが頭をよぎった。

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