婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「ケチをつけるなら、せめて代案くらいは考えておけよ」
「代案がないなら発言するなってのは、会議の本質をはき違えてると思うんですけどね~」
「お前は口ばっかり達者で……」

 松野の額には青筋が浮かんでいるが、大地はお構いなしだ。

「あっ、思いついた。愛人ってどうですかね?」
「どういうこと?」

 松野に罵倒される前に、宗介が話の続きを促した。採用するかは別としても、参加者の意見は平等に聞くべきだと宗介は思っている。

「奥さんじゃなくて愛人なんですよ、立花さんの役は。愛人役なら七瀬泉より立花モモのが絶対似合う」
「……あんまり嬉しくはないけど、ありがとう」

 モモは複雑そうな顔でつぶやいた。宗介は笑いながら、大地に言う。

「面白いけど、最近のCMは倫理面にも配慮しないといけないしね」
「まさに社長の仰る通りです。放送禁止にでもなったら大事ですよ」

 宗介の意見に代理店は大きく頷いた。不倫を肯定するようなCMはさすがにまずいだろう。

「だから、匂わせるってやつですよ。見ようによっては……みたいな。公式説明はあくまでも奥さんで、でもネットで少し話題になりそうな感じのギリギリを責めるんです」
「面白いかも。夜の設定でお帰りなさいって言ってるのに、きっちりメイクに巻き髪とか?」

 大地の意見に一番に乗ったのは、モモだった。
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