婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「まぁ問題がないとは言えませんけど……あの若さが羨ましくもあります」
「彼はいくつになっても、あのままっぽいですけどね」
「たしかに。……それにしても、さすがは桂木社長だ」
「なにがです?」
「人を見る目がある。さっきの、十中八九、春日の案に決まると思いますよ」
「……ですかね」
「東郷さんの別名、冷血監督って言うんですよ。どんな依頼でもクオリティの高い映像を撮ってくれるけど、作品や現場に思い入れがないタイプの人で……その彼がちょっと楽しそうにしてたでしょ?」

 業界をよく知る松野にとっては、驚きだったらしい。

「それなら、僕でなく春日くんを褒めてあげてくださいよ」

 宗介が言うと、松野はうーんとうなった。

「ま、このプロジェクトが成功したらかな。期待しててくださいね」
「はい、よろしくお願いします」

 仕事は順調そのもの。さらに昼にふらっと入った店のランチも思いのほか美味かった。 
 だが、最高の一日には思わぬ落とし穴が待っていたのだ。

 夕方、デスクで仕事をしていた宗介のスマホが鳴った。彼は相手によって着信音の設定を変えている。

「もしもし」

 すでに嫌な予感を覚えつつも、壮介は電話に出た。相手は母親だ。滅多に連絡などしてこないが、ごくたまにしてくるときはいつも面倒事を持ちかけてくるのだ。
< 110 / 160 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop