婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
 麻子はおっとりして見えるが自分の主張は通すタイプだ。断っても、しつこく説得しようとしてくるだろう。それに、莉子は莉子で問題がある。ここはおとなしく迎えに行くほうが、被害は最小限で済みそうだと宗介は判断した。

「けど、莉子の到着時刻に間に合うかは微妙だな。空港内で待っとくよう伝えてくれ」
「はいはい。そのくらいは私から言っておくわ」

 幸いなことに大きなトラブルもなく仕事を切り上げることができ、宗介は愛車を羽田へと走らせた。六本木から羽田は順調にいけばそう遠くはないが、渋滞に巻き込まれてしまった。
 莉子の飛行機は予定通り到着していたようで、結局彼女を一時間近くも待たせることになってしまった。

 指定された空港内のカフェバーに入ると、カウンターに座る彼女の姿が確認できた。会うのは一年振りくらいだろうか。昨年の夏に宗介が英国に滞在したとき以来だ。
 彼女は日本育ちだが、英国の大学に留学したのを機に、そのまま生活の拠点を向こうに置いている。宗介と莉子の祖母は英国人で、現地には親族もいるので苦労はない。

「ごめん、待たせたな」

 宗介が声をかけると、莉子は笑顔でこちらを振り返った。

「久しぶり、宗介」
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