婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「これ、俺が……」

 紅の二十五歳の誕生日、婚約破棄を宣言されたあの夜に贈ったものだった。

「えへへ」

 紅は恥ずかしそうに笑いながら、右手も顔の前まで上げた。右手の薬指には真紅のルビーが輝いていた。

「……同時につける想定はしてなかったかも」

 さすがに派手だ。この大きさのものをふたつもつけて似合うのは妙齢のマダムくらいなものだろう。俺が笑うと、彼女も白い歯を見せて笑った。

「やっぱりそうだよね。でもどっちも素敵で選べなくて」

 よく見れば、指輪だけでなく彼女はドレスアップしていた。髪は綺麗に編み込んだアップスタイルで、足元はエナメルのパンプス。アイボリーの総レースのワンピースは上品で、彼女によく似合っている。このまま三ツ星レストランにも行けそうなスタイルだ。
 さっき六本木で偶然会ったときは、いつも通りのオフィスカジュアルだったからわざわざ着替えたのだろう。

「指輪、よく似合うよ。髪型もワンピースもすごくかわいい。……どうしてわざわざ?」
「少しでも綺麗な私で、宗くんに伝えたいことがあったから。聞いてくれる?」
「もちろん」


宗介は紅の言葉を待った。



 

 




 

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