婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
幸せな結婚へのステップ
 どくん、どくんと、早鐘のように打ちつける胸の音がうるさいくらいだった。緊張と妙な高揚感が入り混じり、紅の心を激しくかき乱す。

(なにから伝えたらいいんだろう……)

 告白がこんなにも精神を消耗するものだなんて、紅は知らなかった。

「紅?」

 柔らかな声色で呼びかけられただけで、口から心臓が飛び出るかと思うほど動揺してしまう。

「あの、田端さんはっ。じゃなくて、莉子さんは……でもなくて、その……」

 一番大切なことは、伝えるべきことは
なんなのか。わかっているはずなのに、うまく言葉にできない。焦れば焦るほど、頭がこんがらがっていく。

「大丈夫。ゆっくりでいいよ。待ってるから」

 宗介は優しい言葉とともに、紅の背中をトントンと軽く叩いた。大きく温かい彼の手が、紅の気持ちをすぅっと落ち着かせてくれる。

 思えば、宗介はいつも紅を待っていてくれる。それが当然だと言うように、紅の歩調に合わせてくれていた。紅はそれにすっかり甘え切ってしまっていた。

(でも、それはもう卒業。もう宗くんを待たせたりしない)

 紅はありったけの勇気をかき集めて、自分の思いを言葉にした。

「宗くんが好きです! いまさらだけど……まだ間に合うなら、私と結婚してくれませんか?」
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