婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「でもねぇ、玲子は知ってると思うけど本当はあの事件がなくてもね……」
紅は自嘲するように薄く笑った。
世間にはあまり知られていない事実だが、あの事件よりずっと前から宮松の経営状況は芳しくなかった。玲子の言うところの、小洒落たお店にかなり客を取られてしまっていたのだ。
事件がなくとも、いずれは潰れていた可能性が高いと紅は思っている。
「それはわからないじゃない! おじさまは誠実な商売をする人だったし、宮松には根強いファンも多かった。立て直せる可能性だってあったわよ」
父はその少ないほうの可能性に賭けていた。立て直せると信じて、必死に走り続けていた。でもあの事件が起きてそのわずかな可能性すら絶たれてしまった。
宮松の後を追うように父は急死した。その意味では、父はあの事件で命を落とした唯一の被害者と言えるのかも知れない。
ただ、宮松が倒産し自宅を手放したからといってすぐに二ノ宮家まで困窮することはない、はずだった。
長年築いてきた財産もあるし、父の保険金だって莫大な額だった。会社を清算しても、家族が生活を立て直す資金くらいは手元に残るはずだったのだ。堅実だった父はそのくらいの算段はしておく人だった。
その計算が狂ったのは、父の死後に発覚した継母の借金だった。紅を産んだ母は紅が四歳のときに病死し、十歳になるときに父は再婚した。そしてすぐに腹違いの弟が生まれた。
紅は自嘲するように薄く笑った。
世間にはあまり知られていない事実だが、あの事件よりずっと前から宮松の経営状況は芳しくなかった。玲子の言うところの、小洒落たお店にかなり客を取られてしまっていたのだ。
事件がなくとも、いずれは潰れていた可能性が高いと紅は思っている。
「それはわからないじゃない! おじさまは誠実な商売をする人だったし、宮松には根強いファンも多かった。立て直せる可能性だってあったわよ」
父はその少ないほうの可能性に賭けていた。立て直せると信じて、必死に走り続けていた。でもあの事件が起きてそのわずかな可能性すら絶たれてしまった。
宮松の後を追うように父は急死した。その意味では、父はあの事件で命を落とした唯一の被害者と言えるのかも知れない。
ただ、宮松が倒産し自宅を手放したからといってすぐに二ノ宮家まで困窮することはない、はずだった。
長年築いてきた財産もあるし、父の保険金だって莫大な額だった。会社を清算しても、家族が生活を立て直す資金くらいは手元に残るはずだったのだ。堅実だった父はそのくらいの算段はしておく人だった。
その計算が狂ったのは、父の死後に発覚した継母の借金だった。紅を産んだ母は紅が四歳のときに病死し、十歳になるときに父は再婚した。そしてすぐに腹違いの弟が生まれた。