婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「相変わらずばっさりだな」

 しゅんと肩を落として帰っていくモモを見送る宗介に、旬がささやく。

 片倉旬。宗介がもっとも信頼し、会社のナンバー2を任せている男だ。創業時からの相棒で、彼の力なしではクリムソンはここまでの成長は望めなかったことだろう。

「なんで? 撮影のことなら俺より松野さんが適任で間違いないだろう」

 今回のリニューアルプロジェクトを主導している広報の松野課長は元キー局のディレクターだ。モモのことも宗介よりよほどよく知っているだろう。
 彼女の言う撮影云々というのがただの口実なのかどうか……は宗介には関係のないことだ。汲み取ってやる義理もない。
 芸能人と噂になることで、世間に社名を売るような時期はとっくに過ぎた。
 そのあたりのことは旬もよくわかっているから、ふっと笑って流してくれた。

「けど、遊び相手に立候補するのはまぁわかるが、秘書とは……笑えたな」

 旬は皮肉めいた笑みを浮かべる。

「たしかに。気を悪くされていないですか、小宮山さん」
「いいえ~ちっとも。私もあのくらいの年の頃は、秘書職はスケジュール帳を読み上げるのが仕事だと思ってましたよ」

 モモが憧れていた宗介の秘書をつとめている小宮山都は、彼の問いにおっとりと答えた。都は四十九歳で、若手の多いこの会社では年長者の部類だ。
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