婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
 旬はうんざりした顔で遠くを見つめた。

「なんで俺がお前の女に惚れて、さらに振られる前提なんだよ……」
「有能な男なら、彼女の価値に絶対に気がつくから。あっ、だから春日くんにも会わせる気はないよ」
「えぇ? 俺、有能っすか?」
「もちろん。そう思ってなきゃ、この部屋には入れないよ」
「おぉ……なんかやる気出てきました! 俺、バリバリ仕事します」
「ははっ。期待してるよー」

 鷹揚に笑う宗介とは対照的に、都は渋い顔でこめかみをおさえている。

「いくらなんでも、彼にはもう少し教育が必要じゃないでしょうか」
「そうだね……でも型にはめると彼の長所が消えてしまいそうな気もするんだ」

 春日大地は常人離れしたIQの持ち主だ。生まれは日本だが、親の都合でアルゼンチン・ラオス・モンゴル・ノルウェー・ドイツ・ポルトガル……と十数か国での生活を経験している。
 十八歳でアメリカの名門大学を卒業し日本に戻ってきたが、就活は失敗続きで数年はフリーターのようなことをしていたらしい。
 
 そんな彼がアポも履歴書もなしに宗介のもとに飛び込んできたのは、今年の春のことだった。
 日本での就活が失敗しまくるのも納得の破天荒さだったが、宗介は彼を気に入った。滞在したことのある国の言葉はすべてマスターしているというのも魅力だったし、発想が柔軟でアイディアが豊富なところもよかった。
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