婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「だ、ダメってことはないけど……今日は宗くんと食事できるような格好じゃないし」

 今日の紅の服装はアイボリーのコットン素材のカットソーにネイビーのテーパードパンツ。足元はパンプスではなく、タッセルローファーだった。会議も来客の予定もなかったから、ジャケットも持ってきていない。オフィスカジュアルのなかでもかなりカジュアルよりだ。

 宗介がセレクトするお店は、雰囲気も味も超一流の名店ばかりで、ドレスコードはあって当たり前だった。だから、彼に会う日はワンピースにジャケット。足元は必ずヒールのある靴を合わせるようにしていた。
 今日の格好では、きっと入口で止められてしまうだろう。

「今日の服もよく似合ってて可愛いよ。もし気になるなら、適当な店で服を調達してもいいし」
「いやいや。宗くんの適当な店はちっとも適当じゃないから、絶対ダメ」

 宗介の言葉尻にかぶせるようにして、紅は彼の提案を即座に却下した。
 彼の思う適当な店は世間一般で言うところのハイブランドだ。そんなところで服を買われたら、また借金返済に苦労することになってしまう。

「じゃ、今日はチェーンの居酒屋にでも行こうか」
「えぇ?」

 紅は本気で驚いた。チェーンの居酒屋に座る宗介はまったく想像できない。
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