婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「でも、宗くんの口には合わないんじゃないかな……安いから仕方ないけどレンチンしただけみたいな品も多いし」 

 元とはいえ、紅は料亭の娘だ。飲食業界についてはそれなりに知っている。店の設定する金額は、かける労力に比例するのだ。
 良い食材を安く提供する方法はなくもないし、そういう良心的な店は実際に存在する。だが、手間のかかる料理を安く提供するのはかなり難しい。
 お手頃価格がウリのチェーン店は、その手間の部分を省いているケースが多い。もちろんそれが悪いわけではない。最近の業務用冷凍食品の進化はすさまじく、値段を考えたら十分に美味しいと紅は思っている。

 けれど、宗介が満足できるとはとても思えなかった。

「全然問題ないよ。俺、そんなに舌肥えてないし。それに、紅と食べるならなんでも美味しい」
「う、嘘だぁ……」

 後半の甘い台詞は置いておくとして、舌が肥えてないは絶対に嘘だ。だって、宗介の選ぶ店は味に一切の妥協はしない一流店ばかりだったから。

「紅の舌に合わせた店を選んでただけだよ。俺のほうは別にラーメン屋だってよかったんだけど」
「そうなの? えっと、それなら……すぐ近くに美味しい中華屋さんがあるけど行ってみる?」
「いいね。そこにしようか」

 フカヒレやら燕の巣やらの出てくる高級中華ではもちろんない。餃子と炒飯が
オススメの街の中華屋だ。課長の行きつけで、ランチに課のみんなでよく行くお店だった。

 


 
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