婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
 それならば、なぜ紅をここに連れてきたりしたのだろう。
 突然職場に現れたことも、いつもの彼ならば絶対行かないような店に付き合ってくれたことも、この公園も……紅には彼の行動の意図がさっぱり読めない。

 宗介は持て余すように長い足を一歩踏み出して、紅との距離をつめた。

「紅が思うほど俺は紳士じゃないよ。優しくするのには、目的がある」

 宝石のように美しい瞳が、射抜くように紅を見つめた。彼らしくない狡猾な表情に、紅は戸惑った。
 彼のジャケットを指先できゅっと握りしめる。

「じゃあ、これもなにか目的があるの?」
「あるよ」
「それは……」

 なに? そう紅が聞く前に、宗介に話題を変えられてしまった。

「それより、この公園昔も来たことあるの覚えてる?」
「うん、覚えてるよ。まだ宮松が潰れる前だから……うんと昔だね」

 紅は覚えていたが、彼も覚えていたとは意外だった。たしか紅はまだ中学生で、宗介は法学部の学生だった。あの頃は……宮松が潰れることも、宗介が企業して経営者になることも、想像もしていなかった。
 宗介は弁護士になるものと、紅は思っていた。周囲にもそれを強く望まれていたし、成し遂げるだけの能力も彼は持っていたから。
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