婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
 だけど、あの日……この公園で話をした時、そうじゃなかったことに気がついた。彼は別の道を模索していた。宗介の思う通りの道を歩いて行って欲しい。そう強く思ったことを、今でも覚えている。
 そうして、彼は実際に別の道で成功をおさめてみせた。もちろん嬉しいことだが、ほんの少しだけ寂しくもある。

「本当に社長になっちゃうんだもんね。やっぱりすごいな、宗くんは」

 夜空にぽかりと浮かぶまるまるの月を見上げながら、紅はつぶやいた。あの月と同じくらい、宗介は遠い存在になってしまった。そんなふうに思いながら。


「すごくなんかないよ。それに……会社の成功は紅のおかげだ」
「私? お父さんの間違いでしょ?」

 今は認めてくれているらしいが、宗介の両親は当初、起業には大反対だった。やはり法曹界に進んで欲しかったからだろう。彼は法学部でもダントツに成績優秀だったから、その反応も当然と言えば当然だ。
 でも紅の父親は違った。彼の挑戦を喜び、全力でサポートした。そう大きな額ではないが資金援助もしたし、一番は彼のアプリに宮松のレシピを提供した。

「そうだね、おじさんには感謝してもしきれない。宮松の出汁巻き卵の反響はものすごかったな」

 創業当時からの伝統の出汁巻き卵のレシピを公開したのだ。これには社員はもちろん、紅も当の宗介だって驚いた。素人がそっくり同じに作れるわけではないが、それでもレシピはやはり店の財産だからだ。
 だが、結果的には宮松にも良い宣伝となりこの時は新規の客がかなり増えた。
 宗介のアプリは人気が爆発し、宮松以外にもたくさんのお店が彼のアプリにレシピを提供するようになった。
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