婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「ほら。油断してると、こうやって食べられちゃうよ」
「な、なんで……」

 吐息が混ざり合い、どちらのものかわからなくなっていく。彼の肩ごしに見える月がやけに存在感を増していた。まるで誰かに見られているようで、羞恥心を煽られる。

「デートだって言ったろ?」
「デートなんかじゃ」

 紅の言葉をさえぎるように、壮介はまた唇を重ねた。彼の持つ熱量に、紅は抗えなくて……溺れてしまう。息もできないほどに。

 ひとしきり紅を味わった後で、ようやく宗介は彼女を開放した。
 紅は荒い呼吸で、慌てたように宗介から目をそらした。

 彼の考えていることがわからない。彼の行動も、それを受け入れてしまっている自分自身も、なにもかもわかなくて戸惑うばかりだった。

「紅の考えてること当てようか?」

 彼は返事を待たずに続ける。

「婚約破棄したはずじゃないの?ってとこでしょ」

 やけに楽しげな宗介に、紅は少し腹が立った。思わず声を荒らげる。

「そうだよ! 他人になったとは言わないけど…もう婚約者でも恋人でもないし、からかって楽しんでるだけならやめて欲しい」

 拒まなかった自分を棚にあげて、彼に怒りをぶつけてしまった。
 そんな紅とは対照的に、彼は余裕たっぷりにニヤリと口角を上げてみせた。

「今日は宣戦布告をしに来た。たしかに婚約は破棄したけど、俺は紅を諦めるつもりはないよ。どんな手を使ってでも、振り向かせてみせる」




 

 













 
< 39 / 160 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop