婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「すぐに使います……なんてアリなの?」
「普通はナシかな。付き合いのある不動産会社だから、特別サービスってとこ」
「宗くんがそういうことするの、珍しいね」

 生まれも良く、今やVIPと呼ばれる存在になった彼だけど、特別扱いみたいなものを望む性格ではない。周囲は彼をチヤホヤするが、本人はいたって謙虚だった。
 だから、宗介がこういった特別な配慮を求めるのを紅は初めて見た気がした。

「うん。思ったより夜景が綺麗だったから、もう少し紅と一緒に見たかったんだ」

 子供みたいな無邪気な笑顔を向けられて、紅の心臓はどくんと大きく鳴った。この胸のトキメキが意味するものは、なんだろうか。本当は気がついているけれど、まだ知らない振りをしていたかった。

 宗介と紅は窓辺に向いているソファに並んで腰かけた。ソファと言っても、紅の家にあるようなふたりで座ったらもう窮屈というようなものではなく、ソファーベッドにもなる広々としたものだ。

「そういえば、なんでもう家具が入ってるの?」
「イメージがわきやすいように飾られてるんだと思うよ。気に入れば、このまま購入もできる」
「そうなんだ……」

 ものすごく広々としたソファなのに、宗介は肩が触れ合う距離に座っている。キラキラとまばゆい夜景とオシャレな間接照明の淡い光で、これ以上ないほどにロマンチックだ。
 紅はなんだか気恥ずかしくなって、あわてて話題を探して宗介に話しかけた。
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