婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
婚約履行へのステップ3
 ぐっすりと眠り込んでしまった紅の長い髪に宗介はそっと手を伸ばす。つややかで、歪みのない美しい髪だ。ストレートのロングヘアは彼女にとてもよく似合っている。

 むきだしになった白い腕が少し冷えていたので、宗介は乱れた毛布を整え直し、彼女の腕をその中にしまった。すると、眠っている彼女がふふっと笑みを漏らした。毛布のぬくもりが嬉しかったのか、いい夢を見ているのか……どちらにしても、あどけない笑顔に愛おしさがこみあげてきて、思わず宗介の頬も緩んだ。

「愛してるよ、紅」

 柔らかな頬にキスを落とした。

 愛している。彼女が思うよりずっと深く、ずっと強く、宗介は彼女を想っている。

『約束します。絶対に彼女を大切に、幸せにします』

 紅の父親と交わしたあの約束は100%本心からであり、自身の成功のため……なんて邪な気持ちは一切なかった。あの時、もうすでに宗介にとって紅は特別な存在になっていた。形だけの許嫁ではなく、好きな女だった。
 むしろあれは、『紅が欲しいなら絶対に成功してみせろ』というおじさんからの挑戦状だったと宗介は思っている。

「……少し急ぎすぎたかな」

 紅の寝顔を見つめながら、宗介は呟いた。

 彼女との関係はゆっくりと進めていけばいいと思っていた。子供の頃から、宗介は好物は最後まで大事に取っておくタイプだった。それは今も変わっていない。
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