婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
 宗介は大地の顔を見て、ふとひらめいた。

「えぇ? 俺がっすか?」
「うん。総務と違ってうちは日々の定型業務もないし、動きやすいだろ」
「いや、まぁそうですけど……それだと俺が暇してるみたいじゃないっすか」
「暇してただろ。朝から大あくび三回は見たぞ」

 横から旬が彼を茶化す。大地に仕事を与えていないわけではないが、まだ新人の彼に任せられる業務量はそう多くはない。他部署の簡単な手伝いをこなす余裕は十分にあるはずだ。

「それに、ほら! 春日くんは広報の仕事向いてると思うんだよね。常識にとらわれないとことか、業界人っぽいし」
「そ、そうか。たしかに! 斬新な目線で立花モモにアドバイスとかできるかもしれないっすよね」
「そうそう」

 宗介はにこにこと相槌を打つ。隣で都が不安そうに顔をしかめた。

「広報の仕事は芸能人の真似事じゃないわよ、春日くん」

 都の言う通り、広報は華やかに見えても仕事の中身そのものは案外地味だ。世間の常識を一番意識しなければいけない部署かも知れない。けど、そういう厳しい現実は少しずつ知っていけばいいと宗介は思っている。憧れや希望を胸に抱けるのは、若手の特権で最大の武器でもある。
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