婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました

「……わかりました。こちらにもメリットがあることは重々承知していますし、今回に限ってはということで」

　黙りこくっていた宗介がようやく口を開いたことで、マネージャーは「ふぅ」と小さな安堵のため息をついた。よく見れば、額には冷や汗のようなものが滲んでいる。
　彼だって、つらい立場なのだろう。週刊誌の発売は五日後だ。今さら止められないし、そもそも上は止める気などない。彼には、なんとしてでも宗介を説得するという選択肢しか与えられていなかったのだろう。

「あ、ありがとうございます。桂木社長！　このご恩は、キャンペーンの成功でお返しすると約束します。な、モモ」

　マネージャーの隣でモモは小さくうなずいた。元気がないように見えたが、自分が口を出す問題ではないだろうと思い、宗介は気づかぬ振りをした。

「それは頼もしい限りですね。よろしくお願いします。ですが、今回のようなことはもう二度としないと約束してください。事前相談もなしにとは……ルール違反ですよ」
「も、もちろん。わかっています、二度はありません。あの、うちの社長にちょっと連絡をしてきてもいいですか。さっきからメールが何件も……」

　社長も相当気をもんでいるのだろう。マネージャーは宗介に頭を下げると、慌てた様子で席を離れた。