婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「先に食べちゃおうか」

 宗介はモモを促すと、自分もナイフとフォークを取った。すると、やけに芝居がかった口調で大地が言った。

「うぅ……なんかお腹の調子が……やばい、やばい。ちょっと失礼しますね」

 大げさな様子でお腹を抱えて、席を立った。すぐ近くにある化粧室をスルーしてわざわざ遠くのほうへと向かっているようだ。どういう魂胆なのか、さっぱりわからない。

 宗介は食事を続けたが、モモのほうはぴたりと手が止まったままだ。

「お肉は嫌いだった? それとも、女優さんだから食事制限かな?」

 世間の認識では立花モモはアイドルもしくはタレントだろうが、事務所の所属タレント一覧の肩書は女優に書き換えられていた。なので宗介もそれにならった。

「お肉は……大好きです。太らない体質だから、食事制限とかって全然してなくて」
「そうなんだ。女優さんのたくさん食べます発言って、テレビ向けかと思ってたよ」

 宗介が笑うと、モモも少し表情をゆるませた。

「……そう言えってマネージャーが。お肉好きは本当だけど、食事制限してないなんて大嘘です。撮影前なんて、ほぼ絶食で倒れそう」

 初めて見る自然な笑顔だった。

「太らない体質より、努力して綺麗な人のほうが素敵だと僕は思うけどね。明日は撮影?」
「違います。明日は久しぶりのオフで」
「じゃあ、ひと口くらいどう? 美味しいよ、この店のランチ」




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