婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
 モモは小さく切ったお肉をひときれだけ口に入れた。

「ほんとだ。美味しい」
「残した分はうちの春日が食べるだろうから、無理はしなくていいよ」
「はい……」

 しばらく黙って食事をしていたが、マネージャーも大地も戻ってくる気配がない。

「ふたりとも遅いね」
「うちの社長、ものすごく話が長いんです。それから……春日さんの腹痛は演技なので心配要らないです」

 モモは意を決したように顔を上げると、そう言った。

「嘘くさいのは気づいてたけど……君が?」
「はい。桂木社長とふたりきりにしてって、私が頼んだんです。春日さんを怒らないでくださいね」
「なるほど」

 宗介の期待をはるかに上回るスピードで、大地は彼女の信頼を勝ち取ったらしい。

「この間は……本当にごめんなさい。かっこ悪い真似して」
「立花さんやマネージャーさんが悪いなんて、これっぽっちも思ってないよ。こういう世界で成功するには必要なことだってのも理解はできるし」
「あの、でも……社長と仲良くなりたいのは嘘じゃないんです! オーディションで初めて会ったときから憧れてて、だからこの仕事が決まったのすごく嬉しくて」

 宗介は話し続けるモモの口を手で塞いだ。唇の端だけで薄く笑う。

「女優を目指してるなら、演技力はもう少し磨いたほうがいいかもね」
「え?」
「この前の写真のときも今も……君の演技はわかりやすい」

 モモは頬を赤らめ、ぷいっとそっぽを向いてしまった。演技は図星だったのだろう。
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