婚約破棄するはずが、一夜を共にしたら御曹司の求愛が始まりました
「君を起用した理由を教えようか。コスパがいいからだ。世間はチヤホヤしてくれるけど、うちはまだまだ成長途中だ。広告宣伝費は抑えたい」
「どういう意味……ですか?」
「人気女優の七瀬泉や森アンナは使えないってこと」

 彼女と同世代のトップ女優の名前を、宗介はあえてあげた。彼女らの報酬はCM1本で数千万円。モモはまだライバルとも呼ばせてもらえないだろう。

 さすがにモモもかっとなって、宗介をにらみつけた。

「私は彼女達の代替品ってことですか」
「まぁ身もふたもない言い方をすればね。……IT社長と結婚なんて逃げ道を考えてる間は、代替品から抜け出せないと思うよ」

 モモはうつむいたまま、ワナワナと身体を震わせている。宗介はテーブルの伝票をつかみ、立ち上がった。

「そちらにご馳走してもらうのは買収されたみたいで嫌だから、ここは僕に払わせて」
「……ちょっと待って」

 立ち去りかけた宗介をモモが止めた。

「七瀬泉より私のほうが断然かわいいし、森アンナも演技力は大したことない! そんなに変わらないもん。絶対、追いついて……ううん、追い越すから。そうなっても、もう二度と桂木社長のとこの仕事は受けてあげないから! 三千万積まれてもお断りしてやる!」

 宗介は声をあげて笑った。単純明快な素直さは彼女の美点だと思った。

「じゃあうちは六千万を提示できるようにしとかなきゃな。それなら君も断れないだろ」


 ちょうどそこに彼女のマネージャーが戻ってきた。

「あ、あれ。社長はお帰りですか」
「えぇ、次の約束の時間なので失礼します。このキャンペーン、必ず成功させましょう」



 





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