10日間の奇跡
思った以上に条件が厳しかった。
沙織や、みんなと過ごした時間はなかったことにされる。それに俺のことを覚えている人は誰もいない。それでも戻る価値があるというのか?
「・・・でも選んだ人も、いる?」
「もちろんいるさ」
「本当に俺のことをなにも覚えていないのか?思い出すということはないのか?」
「残念じゃがほとんどない。ただそなたの想いが強く通じれば可能性もゼロではない」
「・・・なら戻ります。左のドアを選びます」
「本当にいいのかね?魂は消えてしまうのだぞ?」
「・・・それでも俺は、沙織やみんなにもう一度会いたい。話したい。触れたい。たとえ10日間でも、俺は生きていたころと同じようにみんなと過ごしたい」
「そこまでいうならわたしはとめない。自分の思うように進めばよい」
その言葉とともに声は聞こえなくなり、左のドアだけが残った。
黒い空間にぽつんとあるその白いドアは輝いてみえて。
この先の俺の道を照らしてくれるような気がした。
なにがあっても後悔しない。
そう思って俺は左のドアへと一歩、また一歩歩きだした────。