失恋した日に人生最後の恋に出会いました【完】
「それなら良かった」
隣から伸びた大きな手が、私の右手をキュッと握った。
こんな風に陸と手を繋ぎたかった。
今思えば、毎週のように暗闇の映画館に一緒にいて、一度も触れないって、そういうことだったんだと分かる。
純粋にただの友達。
それに気づかなかった私がバカだったんだ。
また、あふれそうになる涙を握りしめたハンカチで拭おうとして、気づいた。
「あの、汚れてしまったので、ハンカチ代お支払いします」
知り合いなら、洗って返せばいいけど、この人は、初対面の通りすがりの人。
もう二度と会うことはない。
「くくくっ、なんでだよ。そこは普通、洗って返します。連絡先を……ってとこだろ?」
低い声で笑う。
だって……
失恋の思い出に繋がる人と、二度と会いたくない。
「あんな見る目のないやつのことは、さっさと忘れて、俺と付き合ってみないか?」
えっ?
「なんで、知ってる……?」
陸のことなんて、一言も話してないのに……
「君は、ずっとあいつのことしか見てなかったから、気づかなかっただけだよ。俺たちは、何度も会ってる。仁科 美優さん」
「えっ!? なんで、名前……」
私が驚いた瞬間、映画も終わり、シアター内に照明が点く。
私は、初めて顔を上げて、隣の彼を見た。
「嘘……」
私は息を飲んだ。
だって、そこにいたのは、私が大好きな人物だったから。
「お? その顔は、ようやく気づいてくれたか?」
彼は、楽しそうにこちらを見ている。
「佐野……監督?」
そう、1年前に私がサインをもらった佐野 正直監督が、なぜかそこにいた。
「ここで、何度も美優を見かけてた。いつも楽しそうにあの男と映画の話をしてたな。そんな美優に1年前、俺の初監督作品を褒められてどんなに嬉しかったか、分かるか? サインくださいって言われて、どんなに舞い上がったか、お前は知らないだろう?」
そんなの、知らない。知るわけがない。
隣から伸びた大きな手が、私の右手をキュッと握った。
こんな風に陸と手を繋ぎたかった。
今思えば、毎週のように暗闇の映画館に一緒にいて、一度も触れないって、そういうことだったんだと分かる。
純粋にただの友達。
それに気づかなかった私がバカだったんだ。
また、あふれそうになる涙を握りしめたハンカチで拭おうとして、気づいた。
「あの、汚れてしまったので、ハンカチ代お支払いします」
知り合いなら、洗って返せばいいけど、この人は、初対面の通りすがりの人。
もう二度と会うことはない。
「くくくっ、なんでだよ。そこは普通、洗って返します。連絡先を……ってとこだろ?」
低い声で笑う。
だって……
失恋の思い出に繋がる人と、二度と会いたくない。
「あんな見る目のないやつのことは、さっさと忘れて、俺と付き合ってみないか?」
えっ?
「なんで、知ってる……?」
陸のことなんて、一言も話してないのに……
「君は、ずっとあいつのことしか見てなかったから、気づかなかっただけだよ。俺たちは、何度も会ってる。仁科 美優さん」
「えっ!? なんで、名前……」
私が驚いた瞬間、映画も終わり、シアター内に照明が点く。
私は、初めて顔を上げて、隣の彼を見た。
「嘘……」
私は息を飲んだ。
だって、そこにいたのは、私が大好きな人物だったから。
「お? その顔は、ようやく気づいてくれたか?」
彼は、楽しそうにこちらを見ている。
「佐野……監督?」
そう、1年前に私がサインをもらった佐野 正直監督が、なぜかそこにいた。
「ここで、何度も美優を見かけてた。いつも楽しそうにあの男と映画の話をしてたな。そんな美優に1年前、俺の初監督作品を褒められてどんなに嬉しかったか、分かるか? サインくださいって言われて、どんなに舞い上がったか、お前は知らないだろう?」
そんなの、知らない。知るわけがない。