失恋した日に人生最後の恋に出会いました【完】
1年前、私は佐野監督の初監督作品の試写会に行った。

ペアチケットだったけど、陸はどうしても外せない仕事があったから、私一人で映画を見た。

すごく感動して、上映後の挨拶に立った彼の一言一句を忘れないくらい、見つめていた。

その後、行ってみたかった裏通りのケーキ屋さんへ一人で向かった。仕事中の陸に差し入れをしようと思って。

裏通りへ向かい、劇場の裏手へ回ると、通用口の所で、さっき見たばかりの佐野監督を見かけた。

うそ!?

「あの! 佐野監督ですよね? 映画すごく良かったです!」

私は、慌てて駆け寄って、そう言った。

「ありがとう」

低い声でそう言った彼は、少し照れ臭そうに微笑んだ。

「あの! サインいただけますか?」

私は、買ったばかりのパンフレットを差し出す。

すると、佐野監督は苦笑いをこぼした。

「俺でいいの? 高井くんも水野さんもいるけど」

確かに、監督のすぐ後ろに主演の二人が並んでいて、その後ろには、主要キャストの俳優さんが3人こちらを見ている。

「はい! あの、皆さん素晴らしい俳優さんだと思うんですけど、私は映画そのものに感動したので……」

私は、言葉尻を濁しながら言い訳をする。

佐野監督は、苦笑いをしながらも、高井さんが差し出したサインペンのキャップを取る。

「君、名前は?」

監督に尋ねられて、私は即座に答える。

「仁科 美優です」

「美優ちゃんって、どんな字?」

サインペン片手に尋ねる。

「みは美しいで、ゆうは優しいです」

私がそう答えると、佐野監督はパンフレットに美優さんへという宛名とともに、サインを書いてくれた。

「ありがとうございました。大切にします」

私はぺこりと頭を下げて、その場を後にする。


その時のパンフレットは、今でも私の宝物だ。
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