失恋した日に人生最後の恋に出会いました【完】
「いつも、あの男と二人で映画を見に来てたのに、今日は一人だから変だと思った。いつも明るいのに、今日は今にも泣き出しそうな顔をしてたから、気になってすぐ後ろに並んで、同じチケットを買って、同じ映画を見ることにした。本当は、自分の映画を見てる観客の反応を見に来たんだけどな」

そうなの!?

「そしたら、いつもの男が別の女と歩いてくるのが見えて、原因はこれか!と思ったから、勝手に彼氏のフリをしてみた。迷惑だったか?」

私はふるふると首を横に振った。

迷惑なわけない。
佐野監督のおかげで、失恋直後に、陸と会話しなくて済んだ。

あの時、もし自分で説明してたら、我慢できずに、その場で泣いてしまったかもしれない。

それを、何も知らないはずの監督が、機転を利かせてフォローしてくれたんだ。

「美優、この映画、どう思った?」

突然、話題が映画のことに戻る。

なんで?

話が繋がらなくない?

私は、混乱しながらも、映画を思い返して答える。

「素敵でした。胸の奥がキュンと締め付けられる感じがして、でも、どこか暖かくて。来週、もう一度見に来ようと思ってました」

私は、感じたことを率直に伝える。

「美優は、こんな恋、してみたくないか?」

そりゃあ、できるものなら、してみたい。

相手もいないのに、出来るわけないけど。

「無理です」

私は、短く一言で伝える。

「できるかできないかを聞いてるわけじゃない。したいかしたくないかを聞いてるんだ。美優は、こんな恋、してみたくないか?」

なんで、そんなことを聞くんだろう?

「それは、してみたいですけど……」

でも、無理だから……

すると、監督は私の手をギュッと握った。

「じゃあ、してみよう!」

「えっ?」

どういう意味?

「これは、俺の理想だよ。俺とこういう恋をしよう!」

監督は、私をじっと見つめる。

どうしよう。
そんなに見られると恥ずかしすぎる。

「でも、私なんか……。監督の周りには、綺麗な女優さんとか、素敵な人がたくさんいるわけだし」

私なんて、ずっと一緒にいた陸にすら選んでもらえないくらい残念なんだから。

「1年前、美優は俺にサインくれって言っただろ? そばに高井くんもいたのに」

私は、こくりとうなずく。

「だって、あの映画も感動したもの」

すると、佐野監督は、笑みをこぼす。

「ありがとう。でも、俺も同じだよ。ここにどんな美人の女優がいても、俺が好きなのは、美優だから。俺は脇目も振らずに、いつもまっすぐ美優のところへ向かうよ」

そう言ってもらえるのは、嬉しい。

でも……

「ごめんなさい。私、失恋したばかりで……。そんなに器用に別の人を好きにはなれないんです」

そうできたら、どんなに楽かと思うけど……
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