願い
眼が覚めたときにはエリコさんの姿はなかった。

テーブルに『仕事だから先に行くね♪』と置手紙があった。
 







いつものことだけど。
 
エリコさんと朝を向かえたことは一度もない。

きっとそれは俺にとってもエリコさんにとっても好都合だからだ。
 







俺はソファーに腰掛け、窓から見える景色を眺めていた。

すでに外は薄暗く、立ち並ぶビルの照明が夜景に変わるまであと何時間もない。
 

俺はタバコを一本吸ってからホテルを後にした。
 
 







俺はまだ恋を知らなかった。
 
好きという感情も、愛するという感情もまだ分からないままだ。

エリコさんのことを好きなのかもしれないと錯覚したときもあった。

エリコさんとするセックスは気持ちが良いし、キスをするだけで反応してしまう。
 




これが恋なのか。
 



そう思った時期もあった。





でもすぐに違うと分かった。


エリコさんは俺以外の男とセックスしているのを知っているし、俺もエリコさん以外の女とセックスをしている。

俺もエリコさんも、お互いの欲求を満たしたい時にだけ会う。


ただそれだけ。
 

エリコさんとの関係をセックスフレンドと呼ぶのは違うような気もするし、正しいような気がする。





これを大人の付き合いというのだろうか。

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