梅雨が始まるまでに
春
家族と過ごす時間が増えて環境が少し変わったころには、
散歩道につくしが並んでいた。
朝起きてから、寝るまで特になんの代わり映えもない一日をただただ、過ごす。
埋まらないカレンダーと時間。
ただ意味のなく外に出て適当に流れてくる音楽を聴きながら
目的もなく散歩をする。
この時間だけは自分がちゃんと生きていると思うんだ。
誰に見られても恥ずかしくない服を着て
靴擦れを一度もしたことのないスニーカーを履く。
すれ違う人なんてほとんどいなくて、見るのはたまに通る車だけ。
一人で前を向いて歩く。
イヤホンから流れてくる音に合わせて心も明るくなれるように。
車が通った。
あの人には、私はちゃんとした人に見えたかな。
弱虫だと、心が沈んでしまっているようには見えていなかったかな。
今の私は、明るくて毎日が楽しい人を演じているとんだ猫かぶりだ。
でも、そんな時間がないと今は苦しくて閉じ込められているようで、
どこかへ飛び出してみたくて。
でも、それがかなわないのも分かっているから自分で思い込む。
なりたい自分になれている、と。
冬に降った雪が溶けてくれない心は夜になるとさらにその存在を知らしめてくる。
意味もなく襲う不安と恐怖、そして目から零れ落ちてくる涙。
なんで悲しいのか、不安になるのかなんて私が一番わからなくて
それが余計に不安を増幅させて涙となり眠れない夜は長く続く。
あの人に電話をかけようか迷って結局やめる。
誰かに何かを求めてもどうしようもないんだよ。
言い聞かせるのはこれで何回目ですか。
こんな毎日が続くのかという絶望感によって口から出るのは前向きじゃない言葉。