こいつ、俺の嫁。ーAnother my wife storyー
どんどん近づいてくる吐息に抵抗できずにいると、風が吹いて奴の長い髪が私の頬に触れた。
それが薬となって固まっていた体が動かせた。
私は咄嗟に男の急所と言われる場所を思いっきり蹴った。
「うっ!おい、いくらなんでも思いっきり蹴りすぎだろ!?
使いもんにならなくなったらどうすんだ…!」
「そのまま一生使い物にならなくなればいいわ!」
怯んだすきに全速力で家まで止まらずに走った。
「…はぁ…はぁ…」
玄関のドアに寄り掛かり乱れた息を整える。
あの時顔に奴の髪がついて体が動かせなかったらあのまま…
そう思うと顔が一気に熱くなる。
"…なぁ、俺の試合観てどうだった?"
どうだったかなんて試合が始まって最後までずっと思ってた。
でもそれを言ってしまったら自分が変わってしまいそうで嫌だった。
「…言えるわけ、ないじゃない…っ」
……かっこいいと思ってしまったなんて。