君といた夏を忘れない〜冷徹専務の溺愛〜

「はぁぁ……どうしよう……」
「どうした? どこか痛むか?」
「ひゃ! せ、専務!」

 いつの間にか戻ってきたらしい専務が、私の横たわるベッドに駆け寄る。心配そうな面持ちに見えるが、もしかしたらクビの宣告をいつ言い渡すか悩んでいらっしゃるのかも……。

「先生は今診察中らしいから、また後程来るそうだ。それまでは俺がいる。寝てろ」
「いえっ! そんなご迷惑をお掛けするわけにはっ!」
「いいから寝ておけ」

 言葉は完結なのに、とても丁寧に布団を掛けなおしてくれる。この優しさは、可哀想な疾患持ちの独身女に対する情けでしょうか。
 どうせならクビじゃなくて、どこか倒れても迷惑にならなさそうな部署へ異動、とかお願い出来ないかしら。
 いや、どこで倒れても迷惑か。

「あ、あの……」
「なんだ?」
「私……クビでしょうか?」

 一瞬、専務は目を見開いたが、次の瞬間には冷静な面持ちに戻っていた。

「……今までは就業中に倒れたことがないと聞いている。これは初回だ。しかも原因は俺。俺のせいで倒れたのに解雇なんてしない。……安心してくれ」

 クビは免れたようでホッとした。だが、原因は専務? どういうこと?

「私、倒れた時の記憶があやふやで……」
「思い出さなくて良い。悪いのは俺だ。帰国早々、君に無理を言ったんだ。悪かった。気にしないでもらえたら、嬉しい」

 それは、思い出せなくてもいいと、気を使ってくださってるのかな……。

「ありがとうございます」
「!」

 私は、思わずほっとして微笑んだ。それを、驚いた眼差しで専務が見ていたことに、私は気づかなかった。

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