君といた夏を忘れない〜冷徹専務の溺愛〜
暫く後に、転落直後からお世話になっている主治医の和久井隆範先生がやってきた。和久井先生は心療内科の医師だ。私の記憶喪失は、外傷がきっかけであるものの心理的なものが要因ではないかと言われ、心療内科にかかっている。
「相沢さんこんにちは」
患者さんたちに大人気の和久井先生。30代位の若い先生だが、清潔な見た目で柔和な物腰、聞き上手で優しいので老若男女問わず予約でいっぱいだ。
「和久井先生。ご無沙汰しています」
「また倒れたんだってね。何か変わったことがあった?」
「あ、いえ……ええと……」
倒れた時のことを全く覚えていない、というか今朝からの記憶が曖昧だ。出社はきちんとした気がするので、やはり会社で気を失ったのだとは思うが、どのように説明したらよいかと思案する。
「私が彼女の記憶にないことを吹き込み混乱したようでした。倒れた前後のことは記憶にないようです」
突然専務が口を挟んだので、私も和久井先生も驚いた。
「あ、えっと、こちら会社の上司です」
「主治医の和久井です。……ご事情は分かりました。もうバイタルも安定しているし、何かあれば常備薬を飲んでもらうということで、今日は念の為入院。明日には退院出来ると思います。不安だったらいつでも受診してね、相沢さん」
「いつもありがとうございます」
和久井先生はまた来ると言って出ていったが、専務はベッドの横に立ったままだ。しかもなんだか険しい顔をしている。
「……あの先生とは顔見知りなのか」
「はい。以前から診察していただいています」
心療内科に以前から通っていることが判明してしまった。今度こそクビにしようかと悩んでいらっしゃるのかしら。そう思って身構えていたが、返ってきたのは全く予想外の質問だった。
「……好きなのか?」
「へっ!?」
「特別な関係なのか?」
「れっ、恋愛どころじゃなかったので……。そういった特別な方はいませんが……」
「そうか」
結婚でもして退職してくれっていうことかしら?病気が判明したから解雇、というのは確かに難しいのかも。
どうしよう、辞めたくない。どうして私は倒れたりしたのか。そういえばさっき専務が何か私の記憶にないことを言ったと仰ったような。
「あの、先程先生に仰っていたことなんですが、私が倒れる前に……」
「いや、あれは忘れてくれ。もう過去のことはいい」
「でも……」
どうして私が倒れてしまったのか知りたかったのに、それは教えてもらえそうもない。
このままじゃ解雇になる……?! どうしたら……。
心の中でパニックになっていると、専務がベッド横のパイプ椅子に座った。思わず専務の顔を見ると、超絶イケメンが極上の微笑みをこちらに向けていた。
「っ!」
「何も心配しなくていい。数日秘書なしでも高林ならこなせるだろう。大丈夫だ。会社での君の居場所も守る。解雇などしないから、安心して寝ろ」
「あ、ありがとうございます……」
どこまでご存知なのだろう。私が会社しか居場所がないことも、記憶喪失のことも、全て知っているかのような。でもその微笑みに安心して、私はゆっくりと目を閉じた。
「相沢さんこんにちは」
患者さんたちに大人気の和久井先生。30代位の若い先生だが、清潔な見た目で柔和な物腰、聞き上手で優しいので老若男女問わず予約でいっぱいだ。
「和久井先生。ご無沙汰しています」
「また倒れたんだってね。何か変わったことがあった?」
「あ、いえ……ええと……」
倒れた時のことを全く覚えていない、というか今朝からの記憶が曖昧だ。出社はきちんとした気がするので、やはり会社で気を失ったのだとは思うが、どのように説明したらよいかと思案する。
「私が彼女の記憶にないことを吹き込み混乱したようでした。倒れた前後のことは記憶にないようです」
突然専務が口を挟んだので、私も和久井先生も驚いた。
「あ、えっと、こちら会社の上司です」
「主治医の和久井です。……ご事情は分かりました。もうバイタルも安定しているし、何かあれば常備薬を飲んでもらうということで、今日は念の為入院。明日には退院出来ると思います。不安だったらいつでも受診してね、相沢さん」
「いつもありがとうございます」
和久井先生はまた来ると言って出ていったが、専務はベッドの横に立ったままだ。しかもなんだか険しい顔をしている。
「……あの先生とは顔見知りなのか」
「はい。以前から診察していただいています」
心療内科に以前から通っていることが判明してしまった。今度こそクビにしようかと悩んでいらっしゃるのかしら。そう思って身構えていたが、返ってきたのは全く予想外の質問だった。
「……好きなのか?」
「へっ!?」
「特別な関係なのか?」
「れっ、恋愛どころじゃなかったので……。そういった特別な方はいませんが……」
「そうか」
結婚でもして退職してくれっていうことかしら?病気が判明したから解雇、というのは確かに難しいのかも。
どうしよう、辞めたくない。どうして私は倒れたりしたのか。そういえばさっき専務が何か私の記憶にないことを言ったと仰ったような。
「あの、先程先生に仰っていたことなんですが、私が倒れる前に……」
「いや、あれは忘れてくれ。もう過去のことはいい」
「でも……」
どうして私が倒れてしまったのか知りたかったのに、それは教えてもらえそうもない。
このままじゃ解雇になる……?! どうしたら……。
心の中でパニックになっていると、専務がベッド横のパイプ椅子に座った。思わず専務の顔を見ると、超絶イケメンが極上の微笑みをこちらに向けていた。
「っ!」
「何も心配しなくていい。数日秘書なしでも高林ならこなせるだろう。大丈夫だ。会社での君の居場所も守る。解雇などしないから、安心して寝ろ」
「あ、ありがとうございます……」
どこまでご存知なのだろう。私が会社しか居場所がないことも、記憶喪失のことも、全て知っているかのような。でもその微笑みに安心して、私はゆっくりと目を閉じた。