君といた夏を忘れない〜冷徹専務の溺愛〜
「秘書交代、ですか?!」
結局5日間も休暇を取るよう命じられ、私は翌週になって復帰した。そこでいきなり、秘書交代を言い渡されてしまったのだ。絶望する私とは対照的に、高林部長はルンルンした表情で今にもスキップしそうだ。
「そう! 久々にダーリンに会ったら、離れたくない! っていう気持ちになってしまったの!」
高林部長は、夫である中川課長をうっとりと見つめながらそう言った。そしてそんな可愛らしい高林部長の様子に目を細めつつ「私も同じ気持ちです」と中川課長が返す。
高林部長は旧姓のまま仕事を続けているが、二人が仲の良いご夫婦であることは社内でも有名だ。
中川課長は専務の秘書。よってこの2年間は海外勤務だった。その為、暫く別居婚状態だったお二人。それでもラブラブなのは羨ましい限りだ。
「公私混同だけど、社長にもお許しを頂けたし、今後私の秘書はダーリンにお願いすることにしました! つまり相沢さんは……」
「クビでしょうか」
そうなったとしたら、絶望だ。生きる希望が無くなる。帰る実家もない私にとって、ここが唯一の居場所だったのに。これからどうやって生きていけば……。
「……バカね。そんな訳ないでしょ」
無意識に握りしめていた手を、高林部長が両手で包み込む。そして優しい眼差しで「クビになんて間違ってもしないわよ」と言ってくれた。
「相沢さんは有能な秘書よ。長年一緒に仕事してきて実感してるわ。優秀な人材を解雇できるような馬鹿な上司ではないつもりよ。だから安心して」
私の手を包み込みながら優しく撫でる。そして普段のキリッとした部長からは考えられないような可愛らしい表情でこう続けた。
「でも今は、ダーリンと片時も離れたくない気持ちが強くて。仕事が大変でも、夫と居れば乗り越えていけるって」
旦那様の勤務地が海の向こうになってしまって、本当は高林部長が寂しい思いをしていることは知っていた。だから、その願いを社長が受け入れているのならば、私は高林部長の秘書を降りなければならない。
だが、プライドを持って取り組んでいた仕事だから、たとえ中川課長であっても、その座を譲るのは少し残念だ。
シュンとする私をよそに、高林部長はまたもやルンルンしながら、発表した。
「そこで! 相沢さんには、城ヶ崎専務の秘書になってもらいます!」
「はい、承知いたしま……ええ?!」
予想外の異動に目が点になる。
「私と貴女の担当を交換するということです。引き継ぎが終了次第、専務の秘書になってもらいます。こちらが引き継ぎ資料です」
と、中川課長が繰り返す。つまり、中川課長と私の担当役員を交換する形となるということで……。
(えええええ)
私は混乱しつつも受け入れるしかなかった。