君といた夏を忘れない〜冷徹専務の溺愛〜
「はぁ…………」
「び、びっくりしたね……!」
残された麻紀と二人、思い切り息を吐いた。驚いた。心臓が飛び出るほど脈を打っている。何かおかしなことは言わなかっただろうか。
「と、とりあえずコーヒー! なんか今色々間違えそうだから、麻紀も一緒に給湯室来てくれない?!」
「わ、わかった! 私も動揺してるけど、二重チェックしよう! 確か専務はブラックだったわ!」
大慌てで給湯室へと急いだ。給湯室は秘書室の目の前だ。その廊下を突き進むと、取締役や役員の部屋がいくつか並んでいる。
「専務、俺にもチャンスある、とか言ってなかった?」
慌てながら、しかし慎重に、ドリッパーにお湯を注いでいると、麻紀がふと思い出したように言った。動揺してお湯がこぼれないよう思わず両手でポットを持ち直す。
「そんなこと言ってた?」
「楓の方ばかり見てたし、楓に気があるのかも!」
「2年も海外勤務して、今日帰国したばかりなのよ? そんなわけないでしょ!」
「そうかしら! 専務は楓みたいな可愛い系が好きなのかも~!」
「もう! 変なこと言わないで! 手元が狂いそう!」
「え〜」
不満気な麻紀を残して、私はコーヒーを運ぶことに専念した。
記憶喪失という大きな欠陥がなかったとしても、私と専務は不釣り合いだ。低身長に華やかさは無い顔立ち。大きな目は幼い印象を持たれるせいで、実年齢どおり27歳だと当てられたことはほぼない。
年齢が10歳も離れているお子様を、専務が相手にするわけがないのだ。