助手席からの景色 〜15年目の小さな試練 番外編(2) ~
■1■
 春の花が咲き誇るにはまだ少し早い3月。
 卒業式が終わり、大学が始まるまでの何にも縛られないゆったりした時間。

 リビングでオレの入れたフルーツティーを飲みながら、ハルが不意に言った。

「ねえ、カナ」

「ん?」

 返事ついでに隣に座るハルに手を伸ばす。
 指先に触れて、そっと手を取り握ると、ハルはクスッと笑みをこぼす。

「あのね」

「うん」

 今日もハルは可愛い。

 抜けるような白い肌を彩る柔らかい髪がふわりと揺れる。
 暑すぎず寒すぎずの身体に優しい気候で、学校も宿題もないストレスフリーの毎日のおかげか、ハルの体調も落ち着いていて、頬にも赤みがさしている。

「カナの運転する車に乗りたいな」

「……え?」

 思いもかけない言葉に、思わずまじまじと見返してしまう。
 そんなオレの反応が意外だったようで、ハルは小首を傾げ、困ったような表情になりオレを見返した。

「えっと……無理なら良いんだけど」

「あ、ううん。全然、無理じゃないよ」

 免許は持っている。

 うちの高校は当然のように運転免許取得は原則禁止。
 だけど、結婚だって許してくれる学校が、筋を通して頼んだことをダメと言うわけもない。まあ、オレが言っても断られる可能性大って事で、お義父さん経由で頼んだのは、自分でもちょっと裏技使ったなとは思っているけど。

 そんな訳で、去年の秋、手術後のハルの容態が落ち着いた後に自動車学校に通い始めて、今年の一月には無事、免許をもらった。
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