【完】囚われた水槽館~三人の御曹司からの甘美な誘愛~
「そんな奴ぶっ殺してぇ程憎いじゃん。そんなん平気な顔して話すな」
「でも私……母の事も義理父の事も憎んでいません。
それから出会って私を利用とした人達も。
いや、憎む力さえ沸いてこないんです。心が動かない。あの海で死んでいなくとも、私はとっくに死んでいたのかもしれません」
「憎んでねぇつーのは綺麗ごとだ…」
彼はもしかしたら私の思っていた様な人ではないのかもしれない。
だってこの人の背中が後悔している。私を無理やり抱こうとしたのを、後悔している。
「俺は父親の顔も母親の顔も知らない。 悠人や智樹さんだって同じ様なもんだ。
そして俺ら兄弟は、きっと顔も知らない様な両親を憎んでいる。
俺の母親はさ、物心着く前に孤児院の前に俺を捨ててく様なろくでもない女だったらしいから、その相手の父親つーのもろくな奴なんかじゃねぇと思う。
そんなゴミみたいな人間から生まれた俺だってゴミみたいな人間かもしんねーけど…」
「そんな…」
顔だけこちらを向ける朔夜さんの、瞳はやっぱり美しい。 見る角度によって、色を変えていく。
笑ってはいなかったが、いつもよりずっと穏やかな表情だった。
穏やかな表情で自分の人生を卑下していく。