【完】囚われた水槽館~三人の御曹司からの甘美な誘愛~
智樹さんはいつだって笑顔だ。 猫の様な瞳を細くして、いつも上がっている口角のまま、とても優しく笑う。
でもいつも笑顔だという事は、余り感情は動いていないという事。 どこかミステリアスで掴み所がない。たった一度抱きしめられたあの日だけ、ほんの僅かにこの人の感情が動いた気がする。
「そう。すっごく上手でした。意外に面倒見が良いですよね、朔夜さん。
今日も美味しいお寿司をご馳走してくれたし」
「二人と仲良くなってくれて嬉しいよ。 まりあも大分この横屋敷家にも慣れて来たみたいだし、春太さんはまりあに会えた事を喜んでいる。
これからは正式な書類を書いて貰って、改めて横屋敷の人間になる準備をしよう」
「その事なんですけど、智樹さん。
私やっぱりお断りしようと思ってます」
かちゃりと金属音の交わる音が室内に響く。
ティーカップをソーサーに置いて、智樹さんが目線をゆっくりと上げた。
「何故?」
「自分にはこの大きなグループは抱えきれない…と思ったからです。
それに祖父が私に会いたいと思うならば、会いに行く事は横屋敷の人間でなくたって出来る訳ですし
何よりグループや遺産もずっと祖父と一緒に居た智樹さん達相続するのが相応しいんじゃないかって、私は思います。」