転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
 たしかにこの研究所で行われているのは国家の緊急事態に対応するための研究ではないにしても、そんなお喋りで時間をつぶして許されるほどこの国の貴族は暇か。暇なのか。
 貴族達って、どこでも変わりないんだろうか。アイリーシャが前世で囲まれていたのは、貴族そのものではなかったけれど。
 幸いなことに、先方はまだアイリーシャに気づいていない。

(……隠れよ)

 よくないのはわかっていて、アイリーシャはこっそりスキルを発動した。
 エドアルトとの一件があるから、パーフェクトに身を隠すような真似はしない。ちょっぴり、存在感を薄くするだけ。
 先方には、「誰かが向こうから歩いて来た」が、あえて目をとめる必要もない存在として認識されているはずだ。
 たぶん、使用人程度の認識だろう。貴族達は、いちいち使用人のことなんて気にしないものだから。

「やっぱり、アイリーシャ様は難しいんじゃないかな。魔力の制御ができないだろう」
「所長が、完璧に制御できるように指導したと聞いているが」
「ああ……週の半分は、公爵家の領地の方に行っていたのは、それが理由か。正直、けっこうな迷惑だよな」
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