転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
 自分の顔面の破壊力をわかってやっているのだろうか。わかっていなそうな気もする。

「――君は、俺のことはよく知らないだろう。だからだよ」

 一瞬、何か口にしかけたようにも思えたけれど、彼はそう言って話題を変えた。

(たしかに、よくは知らないけれど)

 今、彼は別のことを口にしようとしたんじゃないだろうか。そんな風にも思ったけれど、アイリーシャも他に考えないといけないことがある。
 ノルヴェルトの部屋は、二階の奥まったところにあった。扉を開けた正面に、どんと大きな机が置かれている。

「よう! 来たか!」

 立ち上がったノルヴェルトは、入って右手の方に置かれているソファに、エドアルトを案内する。自然、アイリーシャもそちらに向かうことになった。

「来たかじゃありませんよ、お兄様。殿下と何をやっているの?」
「ああ……これか。殿下の剣の調整な」

 剣の調整って、武器職人がやるものではないだろうか。
 アイリーシャの疑問は、すぐに解消された。エドアルトが、ノルヴェルトの前に剣を置いたからだ。

「俺は、水の属性持ちだ。特に"氷"が得意だな」
「ああ、それで」

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