転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
 前世の両親は、愛美のことを政略結婚の道具としてしか見ていなかったけれど、時々、気まぐれのように遊園地に行ったり、動物園に行ったりと普通の親子らしい行動をとることもあった。

(夏休みの宿題のネタ探し……だった気もするけれど)

 小学生の頃は、夏休みの宿題に絵日記や写生を提出することもあった。その時に、何も提出できないでは外聞が悪いとか、そんな理由だったと思う。
 それでも、両親と出かけることができた――子供の頃は、それを大切な思い出として抱え込んでいた。
 その熊のぬいぐるみを買ってもらったのは、最後に三人で出かけた時の夏休みだったと思う。動物園で飼われていた熊をモチーフにしたものだった。
『そんな安物買わなくても』

 そう言ったのは、たぶん母だ。母からしてみれば、愛美はつまらないものを抱え込んでいるようにしか見えなかっただろう。
 それでも、父は買ってくれて、帰りの車の中でずっと大切に抱え込んでいた。

(ルルには、なんでも話すことができた)

 親に弱みを見せるのはいけない、と。
 そう思い始めたのがいつのことなのかはもう覚えていない。
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