転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
「お帰りになる前に、護衛に見つからず、見て回り……ます……か……?」

 勢いよく差し出したものの、言葉の後半はゆらゆらと不安定に揺れてしまった。
 よく考えたら、こちらから手を繋ぎましょうと言っているようなものだ。

(わ、私、何を言ってるんだか――!)

 エドアルトは、女性の方から迫られるのは好まない。それは、彼に撃沈してきた他の令嬢達を見ていればすぐにわかる。

「あ、あのですね! 他意はないんですっ! ただ、その……私の、"隠密"は、手を繋いでいないと他の人まで効果が及ばなくてですね……」

 慌てて手を引っ込めようとすると、その手を取られた。

「そういう厚意なら、ありがたく受け取る!」

 彼の声が少し弾んでいるのは、アイリーシャのうぬぼれか。

「こら、足にじゃれつかないの」
「ルルは、俺が抱こうか」

 片方の手でエドアルトがルルを抱き上げ、もう片方の手はアイリーシャとつなぐ。
 ゲームの中では、スキルを保有している本人しか使えなかったけれど、ここはゲームと同じ世界ではあっても、ゲームそのものではない。

(……なんだか、ドキドキしちゃう)

< 176 / 284 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop