転生令嬢はご隠居生活を送りたい! 王太子殿下との婚約はご遠慮させていただきたく
「怖がる理由なんて、ないだろうに」
「だって、呪いは私が戻ってきてからだって」

 くだらないと言いたそうに、エドアルトは唇を引き結ぶ。

(私って、嫌な子になりかけているのかも)

 エドアルトが、そんな顔を見せてくれることにほっとするなんて。
 このところ、宮中でささやかれる噂。
 アイリーシャが、事件の黒幕だ、だとか。
 アイリーシャの連れている犬が悪魔の化身だ、だとか。
 エドアルトが、そんな噂をまったく気にしていないことにほっとするなんて、どうかしている。

「殿下、本当に行くんですか?」

 そう声をかけてきたのは、アイリーシャの兄、ヴィクトルだ。近衛騎士として王宮に勤務しているということもあり、今日は彼がエドアルトの護衛についていた。

「証拠は、ここにある。神官長としても、これ以上はまずいと思っているだろう」

 最近、街でも噂になり始めている。倒れているのは、裕福な者ばかり。そうではない者は、神殿による回復魔術を受けることができないと。

「いつもより値を上げて、回復魔術を使っている。いつまでも、このような状況を許しておくわけにもいかない」

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